第三話 いろいろな麻薬

この国の麻薬ギャングは、南アメリカ原産(げんさん)のコカの木からコカインという麻薬を作り、それをアメリカ合衆国内で売って、莫大(ばくだい)な利益をあげている。なぜ、麻薬がたくさんのお金になるのだろう。麻薬には、依存(いぞん)を起こさせる性質がある。

依存とは、一度体の中に取りこんでいい気持ちになることを覚えてしまうと、何度もほしくなり、やめられなくなる性質のことだ。やめられないばかりでなく、心と体が影響(えいきょう)を受けて日常生活を送ることができなくなる。これが依存症(いぞんしょう)という病気だ。世界には麻薬依存症(まやくいぞんしょう)の人がたくさんいて、その人たちは、飲んだり、注射したり、吸いこんだりして、麻薬を体の中に入れておかないと死ぬほどの苦しみを味わう。

たとえば、コカインの依存症になると、自分の皮ふの下を、虫がはい回っているように感じ、その恐怖(きょうふ)から、ナイフで自分の腕を切り裂さいたりする。あるいは、自分の頭の中で虫が暴れているという錯覚(さっかく)を起こして、自分の頭を壁に打ちつけたりする。

そのような恐怖から逃れるためには、もう一度コカインを吸いこむ以外、方法がないので、依存症になった人はコカインがどんなに高くても喜んで買う。ヘロイン、マリファナ、覚(かく)せい剤(ざい)(16)、危険ドラッグ(17)も同じだ。麻薬をやめられない人は、麻薬を買い続ける。

お金がなければ、盗(ぬす)みを働いてでも買う。それだけではない。麻薬を使っている人には耐性(たいせい)がつくことがある。耐性というのは、麻薬を使ううちにだんだん効かなくなってくることを言う。気持ちがよくなるまで麻薬を使うことをくり返すうちに、使う量が多くなってくる。

麻薬をやめられない人は麻薬を買い続けるだけでなく、買う量がだんだん増えてくるのだ。麻薬ギャングにとって、こんなにありがたい客はいない。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『ヘロイーナの物語』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。