高齢期における六つの課題

アメリカの教育学者・ハーヴィガーストはその著書『人間の発達課題と教育』(Developmental Tasksand Education)の中で、高齢期について以下の六つの発達課題を提示しました。

発達課題は、「人間が、健全で幸福な発達をとげるために各発達段階で達成しておかなければならない課題であり、次の発達段階にスムーズに移行するために、それぞれの発達段階で習得しておくべき課題」と定義されています。平易に言えば、これをクリアすれば幸福が得られ、さらに歳を重ねたときにはその状況にうまく適応していけるということになります。

〈高齢期の六つの発達課題〉

(1)体力や健康の衰えに適応すること

(2)引退と収入の減少に適応すること

(3)配偶者の死に適応すること

(4)同年代の人々と親密な関係を結ぶこと

(5)社会的・市民的義務を果たすこと

(6)身体的に満足できる生活環境を確立すること。

順に見ていきましょう。

(1)体力や健康の衰えに適応すること、(2)引退と収入の減少に適応すること

加齢に伴う避けがたいマイナスの変化に抗うことなく、それらを受け入れ、その変化にうまく対応していけるかどうかという課題です。

(3)配偶者の死に適応すること

配偶者と同時に死ぬことはできません。したがってそのとき、どちらかが大きな喪失を味わねばなりません。その死とどのように向き合い、受け入れるか。そして、配偶者のいない状況にうまく適応できるかどうかという課題です。人によっては、配偶者だけでなく、親や近しい人の死かもしれませんし、現代では、ペットもこの項目に相当するケースもあるでしょう。

(4)同年代の人々と親密な関係を結ぶこと

「世代間」ではなく、「同年代」と言っているところがポイントです。よく「世代間で交流をしよう」というかけ声も聞きますし、それは悪いことではありませんが、高齢者にとっては同世代との交流がより望ましいものです。

これは、後ほど改めて触れたいと思いますが、その理由は、一つには同世代のほうが、互いの状況や心理を共有しやすいこと、二つ目は共通の話題が見出しやすいこと、三つ目は活動時間がおおむね一致していることです。「孫が来るのは嬉しいが、何日もいると疲れてしまう」というのは、この三点に当てはまらないからでしょう。

(5)社会的・市民的義務を果たすこと

収入になる仕事をする、ボランティアをする、地域の活動に参加するなど、何らかの形で社会参加をすることです。先ほど紹介した「プロダクティブ・エイジング」のように、高齢者は現役を退いたとしても自立を続け、その能力を活かして生産的な活動、社会貢献活動に参加すべきだという考え方です。「生涯現役」に近いイメージです。

(6)身体的に満足できる生活環境を確立すること

若い頃のままの生活環境は、高齢者にとって危険であったり、不都合が多くなったりするから、高齢期に相応しい家や環境に身を置くようにしなければならないという課題です。若い頃には気にもならなかったことが高齢期には苦痛になったり、場合によっては大きな事故につながったりします。

自立生活を継続するためにスーパーや病院や金融機関などが近くにあるかどうか、段差や坂道がきつくないか、居室や浴室などに大きな温度差がないかどうか、庭の手入れが大変ではないか、体調の急変や事故、災害などの際に手助けをしてくれる人がいるかどうか等に注意し、問題があれば住み替えも検討すべきということです。

これら六つの課題は現代の日本にも十分に通用します。高齢期を幸福に過ごす前提として、チェックリストにしてみるのもいいかもしれません。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『年寄りは集まって住め』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。