第三章 ガルシア牧場

第一話 寄宿舎

カルロスが学校へ行ってから三年がたった。今年も学校が長い休みに入る季節になり、コンスエラは毎日、カルロスの帰りを楽しみにしていた。去年はもうとっくに帰ってきていたのに、今年はどうしておそいのだろう。連絡(れんらく)もないまま、何日もむなしく過ぎた。

「カルロスはどうして帰ってこないんだろうね」

コンスエラはフィオリーナにそうくり返すばかりだった。とうとう、学校の始まる季節になったが、カルロスは帰ってこない。手紙を出したが返事はなかった。心配でこれ以上待っていられなくなったコンスエラは、カルロスに会いに行こうと決心した。

二日間かけて、やっとカルロスのいる町に到着したコンスエラは、夕方、疲(つか)れた体を引きずるようにして寄宿舎にたどり着いた。寄宿舎の管理人は、訪ねてきたのがカルロスの母親であることを知ると、はっとしたようだったが、その後は硬(かた)い表情に戻ってカルロスの部屋の場所だけを教えてくれた。

部屋に近づくにつれ、コンスエラの心にはじょじょに不安が広がり、ドアをノックした時には、その不安は頂点に達(たっ)した。しばらく耳をすませたが、何の答えもない。部屋は中から鍵(かぎ)がかかっているようだった。

「カルロス!」

もう一度ノックしながら、コンスエラは呼んだ。大きな声を出そうとしたが、緊張(きんちょう)して小さな声になった。何か恐(おそ)ろしいことが待っているような予感がして、膝(ひざ)ががくがくふるえ、心臓(しんぞう)は破れそうにどきどきした。

「カルロス。開けて!」

今度は思い切り大きな声で叫びながら、力任せにドアに体をぶつけると、鍵の外れるような音がした。鍵は一つではなかったようで、開いたドアの端(はし)に鍵の残骸(ざんがい)が三個ぶら下がっているのが見える。

コンスエラが部屋の中に入ると、カーテンがしっかり引かれて真っ暗な部屋の中に、不思議なにおいが立ちこめている。コンスエラの目はカルロスの姿を求めて、あちこちとさまよった。暗くてよく見えないことが、もどかしかった。暗がりに目が慣れてくると、散らかった服に埋(う)もれるようにして、部屋の隅(すみ)に人がうずくまっているのが見えた。