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「高齢者の終末期の医療およびケア」って何なの

"エイジズム"という用語、具体的にはどういうことかわかりますか。

少し解説しましょう。

例えば……

A.83歳で肺炎になった人がいて、抗生物質による治療によって完治するかもしれないのに、高齢だという理由だけで治療が差し控えられるケース

B.介護老人保健施設に入所している軽度の認知症高齢者が、完治の可能性が十分にある胃ガンにかかってしまったが、高齢だという理由だけで病院への紹介がなされずに経過観察されるケース

あるいはこんなことだってありえます。

C.85歳で肺ガンになり、本人は自宅での看取りを希望したにも関わらず、高齢だから自宅では実現が難しいと医療者から協力がなかなか得られず、自らその処遇を諦めてしまうケース

などのように、

「高齢という理由だけで本当なら実施して意味のある医療行為が手控えられてしまったり、本人の希望がなかなか受け入れられないようなケース」

が、ここでいうところのエイジズムの具体例でしょう。

「高齢者の終末期の医療およびケア」については、いくつかの立場を示してその論拠を説明し、日本老年医学会からの提言を社会に発表する必要があったのだと、私は強く思います。

それは、「高齢者の終末期の医療およびケア」が、下記の五つの事実に代表される性質を持つからです。

1.普遍性:すべての高齢者が、必ず自らの終末期に直面するといった事実。

2.多様性:高齢者の終末期おける臨床像、いわゆる死にざまが人によって大きく異なるという事実。その原因は悪性腫瘍もあれば、心筋梗塞、老衰など、多岐にわたるという事実。

3.相対性:家族との関係性などが、その死にざまに影響を与えるという事実。例えば、家族の意思によって終末期のケアが決定されうるという事実。

4.不確定性:自分の死にざまを自分でなかなか予見できず、また医療者からもわかりやすい説明を受けられる保証がないという事実。

5.将来性:未解決な課題が多く、改善の余地がたくさん残っており、それに対して不断の努力がされようとしている事実。

私は日本老年医学会が「高齢者の終末期の医療およびケア」としたテーマを、「高齢者の終末期ケア」という言葉でまとめました。ほとんど同じ意味で使っています。

そしてこの「高齢者の終末期ケア」は、当たり前のことでありながらも、いろいろなケースがあるということも知って欲しいのです。

そしてそれは、家族の意向などが強く影響を与えそうであり、普遍的なのに、あらかじめ予測して準備するのは難しいことであるが、これからさまざまな人たちが真剣に考えなければいけない大事なテーマになる。

そういう予感が、私にはあるのです。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『改訂版「死に方」教本』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。