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夢解き

捨てられた本のことを考えていたせいか、夢を見た。

ねっとりとした暑さの夏だが、海からの風が涼しい。私は砂浜に大きめのハンカチを敷き、その上に腰を下ろし、持ってきた『秘密の花園』を開いた。しかし一ページも読まないうちに上から手が伸びてきて、本を取り上げた。

「こんなところまで来て何をやっているんだ。海で遊んだらどうなんだ」

手の主は父であった。父はずかずかと海の方へ歩いていき、本を海へ投げた。私は驚いて本を拾いに走った。

だが、手が届いた途端に、本はたちまち溶けてしまい、私の手の中で様々な色のインクとなり、やがて海の水と同化した。

振り返ると、父はこちらに背を向けて去っていくところであった。

「お父さん待って！」

慌てて私は父を追いかけるが、砂に足を取られて全く進まない。父の姿はどんどん遠くなっていく。

私は疲れ果てて、白い砂の中に埋もれるように座り込んでしまった。照り付ける太陽と、砂の熱さが私の絶望感を増幅し、このまま溶けてしまいたいと思っていると、

「立てるかい？」

私を置いて行ってしまった筈の父が、いつの間にか戻ってきて、私に手を伸ばしている。その声の優しさに私は一瞬戸惑ったが、また置いて行かれては敵わないと思い、すぐにその手を掴んだ。

「ここには誰と来たの？　名前は？」

「え？」

立ち上がってみると、私は父の腰のあたりまでの背丈しかない。

「お父さんと来たのかな？　あっちに交番があるから僕と一緒に行こう」

よく見れば、父と思ったその人は父よりずっと若く、色白で、声が優しい。私の手を優しく引き、私の歩幅に合わせてゆっくり歩き始めた。父は私と歩く時にこんな気遣いはしてくれない。

「お父さん、若返ったの？」

私は、この人は父ではないと感じつつも訊いた。

「僕は君のお父さんじゃないよ。君、名前は？ここにはお父さんと来たの？」

「池田なほ子。お父さんとお母さんと来たの」

「お父さんの名前は？」

「池田創平。お兄さんの名前は？」

「僕のこと、覚えてない？」

訊かれて私は男性の顔をよく見てみたが、確かに会ったことがありそうなのに、思い出せなかった。

「覚えてない」

「コンパで会ったばかりなんだけどね」

「コンパって何？」

「なほ子ちゃん、今いくつ？」

「九歳」

「九歳のなほ子ちゃんじゃあ、覚えてなくても仕方ないか」