いずれにしても、引き出物が配布された人々を洗い出すためには、どこで行われた披露宴であるかを特定することが肝要だった。

大東は、考えられる花瓶の流れの経緯をもう一度整理した。

第一に、井上が披露宴に出席して、花瓶をもらったと考えた場合。

その頃、井上は、池袋店の営業推進部長から店次長に昇格した直後であり、金沢には全く縁もゆかりもなかった。したがって、東京圏で行われた披露宴に出席した可能性が高い。

井上は金沢に転居するにあたって、他の家具、小物類と同様に、花瓶も持ってきたと考えられる。だが、男が花瓶など持ってくるだろうか……

第二に、井上が関係していた女が、どこかの披露宴でもらった花瓶を持ってきたと考えた場合。

彼女は、井上が金沢に赴任して来てから、男女の関係ができた者と考えるのが妥当であるから、地元の金沢圏で行われた披露宴である可能性が高い。

この女は、井上と関係ができてから、彼の部屋に花を生けるために、自分の家から以前に引き出物としてもらった花瓶を持ち出して来たと考えられる。

可能性としては、女の線の方が高かったので、大東は、金沢市内の結婚式場から、花瓶の引き出物を当たるよう指示した。机の上に置かれた赤い花瓶を黙って見つめながら、それを洗えば、新しい人脈に到達するかもしれない。

もしかしたら、害者の女がわかる。大東をはじめとして捜査陣はそう考えていた。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『店長はどこだ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。