ははぁ、お前達(まえたち)は、俺達(おれたち)を今(いま)でも何(なん)となく悪(わる)い奴(やつ)だと思(おも)っているんだろう! たしかに昔(むかし)、俺達(おれたち)の先祖(せんぞ)は随分(ずいぶん)、人間(にんげん)に悪(わる)いことをしたようだ。だから昔(むかし)から鬼(おに)は悪者(わるもの)と思(おも)われているんだ。

だが桃太郎(ももたろう)の話(はなし)だって桃(もも)から生(う)まれるわけがないし、犬(いぬ)や猿(さる)やキジが鬼(おに)退治(たいじ)にお供ともするのもおかしい。あれは昔(むかし)の作(つく)り話(はなし)だ。

大江山(おおえやま)の酒呑童子(しゅてんどうじ)の話(はなし)だって、正体(しょうたい)は鬼(おに)をよそおって金品(きんぴん)や女(おんな)を掠奪(りゃくだつ)した盗賊(とうぞく)だったそうだ。それを源頼光(みなもとのらいこう)様が退治(たいじ)したんだそうだ。

そしてだな、今(いま)でも続(つづ)いている節分(せつぶん)の『豆(まめ)まき』だって『鬼(おに)は外(そと)!』『福(ふく)は内(うち)』と叫(さけ)ぶだろう。これもだんだん気(き)がついたのか、それとも新型(しんがた)コロナウイルスのせいか、家(いえ)の中(なか)で大声(おおごえ)を出(だ)さなくなった。昔(むかし)は耳(みみ)が痛(いた)いほど叫(さけ)んでいた。

いろいろな思(おも)い出(で)があるが、俺(おれ)の親(おや)の話(はなし)では大昔(おおむかし)はたしかに俺達(おれたち)は人間(にんげん)に対(たい)して随分(ずいぶん)悪(わる)いことをしたらしい。

そしてある時(とき)、お釈迦様(しゃかさま)とバッタリお会(あ)いしたそうだ。もしお釈迦様(しゃかさま)に出会(であ)っていなければ、俺達(おれたち)はまだお前達(まえたち)の嫌(いや)がる鬼(おに)だったかもしれない……。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『地獄・極楽列車 私と青鬼』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。