地獄(じごく)・極楽列車(ごくらくれっしゃ)

車内(しゃない)にふと目(め)をやるとビックリしました。

後方(こうほう)の車両(しゃりょう)から、何(なに)か青鬼(あおおに)らしい姿(すがた)がこちらに向かって歩(ある)いて来(き)ます。駅員(えきいん)の帽子(ぼうし)を被(かぶ)った車掌(しゃしょう)さんのようです。そして左右(さゆう)を見(み)ながら改札(かいさつ)しているのです。一人(ひとり)ずつじっと検(しら)べながらチェックしている様子(ようす)です。

やがて私達(わたしたち)の車両(しゃりょう)にやって来(き)ました。車掌帽(しゃしょうぼう)から二本(にほん)の角(つの)を出(だ)して、上着(うわぎ)だけ駅員(えきいん)の服(ふく)を着(き)て、黒(くろ)いカバンを前(まえ)にぶらさげています。

さも赤(あか)ちゃん達(たち)がかわいいのかニコニコしながら四方(しほう)を見廻(みまわ)していて、私(わたし)の改札(かいさつ)をせずに先(さき)の客席(きゃくせき)へと行(い)こうとしています。

私(わたし)は未(いま)だ乗車券(じょうしゃけん)を買(か)っておりませんし、さてどこで降(お)りたらよいか……と迷(まよ)っておりましたが、青鬼(あおおに)の車掌(しゃしょう)さんは私(わたし)に見向(みむ)きもしないで前方(ぜんぽう)の車両(しゃりょう)へと消(き)えて行(い)きました。

そして、しばらくするとまた、青鬼(あおおに)の車掌(しゃしょう)さんはニコニコしながら赤(あか)ちゃん達(たち)を見守(みまも)るかのように戻(もど)って来(き)ました。

私(わたし)「あのー車掌(しゃしょう)さん! 私(わたし)は未(いま)だ乗車券(じょうしゃけん)を買っておりませんので……私(わたし)はどこで降(お)りたらいいか教(おし)えて下(くだ)さい」

私(わたし)の方(ほう)をふり返(かえ)り、

青鬼(あおおに)「あなたはこの『地獄・極楽列車(じごく・ごくらくれっしゃ)』の特別見学者(とくべつけんがくしゃ)ですから、切符(きっぷ)はいりませんよ。この列車(れっしゃ)は永遠(えいえん)に走(はし)っていますから、あなたの好(す)きなところでいつでも下車(げしゃ)できますよ! でも極楽駅(ごくらくえき)までは是非(ぜひ)見学(けんがく)して下(くだ)さいね!」

と言(い)って、また後(うし)ろの車両(しゃりょう)の方(ほう)へ向(む)かって行(い)きました。

さて私(わたし)はどこで降おりようか迷(まよ)いましたが、ともかく、私自身(わたしじしん)がとても疲(つか)れておりましたし、この列車(れっしゃ)は終点(しゅうてん)がなく永遠(えいえん)に走(はし)り続(つづ)けるなら何(なに)も急(いそ)ぐことはないな、とのんびりした気分(きぶん)になりました。