総需要拡大効果

「日本の将来推計人口」(国立社会保障・人口問題研究所2017年)によれば、人口減少幅は今後も拡大の一途で、2050年代になると、毎年90万人規模で減るため、国内マーケットはみるみる縮小していく。

このまま放置すれば、国内市場向けに販売している業種は、深刻な需要不足に襲われる。労働力人口となる世代は消費のリード役でもあるため、購買力のあるこの世代が減ると、消費も冷え込んで経済が停滞する悪循環をもたらす。

後述するようにBIを使用期限のあるポイントとして給付すれば、ほぼ全額消費されると考えられる。乗数効果を考慮せず、BIが1回しか回転しなかったとしても、その金額は約50兆~100兆円にもなる。日本の金融業、保険業を除く全産業の売上高の総計は年1400兆~1600兆円前後であるから、売上高を数%押し上げることになる。

GDPがおおよそ500兆円とすると、家計はその約6割の300兆円である。BI総額を60兆円とすれば、約2割というかなり大きな効果がもたらされるだろう。「来年は給料が減るかもしれない」「ひょっとしたら解雇されるかもしれない」という不安があっても、BIがあれば、消費の減り方は小さくなる。

GDP600兆円を実現し、国民を豊かにするため、現在の国民平均給与所得414万円を20%(約80万円)引き上げたとしても、それは国民一人ひとりの所得が、軒並み80万円増えることを意味しない。労働への分配率が下がれば、多くの国民の所得がむしろ減ることでさえあり得る。

この点、まさに国民全員の所得を直截的に増やすのがBIという手法である。BIはポピュレーションアプローチであるから所得分布の山全体を右に動かす。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『ベーシックインカムから考える幸福のための安全保障』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。