私(わたし)はビロードのような柔(やわ)らかな座席(ざせき)にすっと腰掛(こしか)けました。

そこには先客(せんきゃく)のかわいい赤(あか)ちゃん達(たち)が色(いろ)とりどりのベビー服(ふく)を着(き)てハイハイしたり、寝(ね)ころんで哺乳瓶(ほにゅうびん)を抱(かか)え一生懸命(いっしょうけんめい)ミルクを飲(の)んだり、その隣(とな)りの赤(あか)ちゃんは何故(なぜ)か私(わたし)の顔(かお)を見(み)てニコニコ笑(わら)っています。

私(わたし)は右手(みぎて)の人差(ひとさ)し指(ゆび)をおじぎをするように曲(ま)げて笑(わら)って挨拶(あいさつ)しました。

この客席(きゃくせき)にいるのは赤(あか)ちゃんばかりでした。私(わたし)は赤(あか)ちゃん専用(せんよう)の客席(きゃくせき)に乗(の)ったようです。

さて列車(れっしゃ)は私(わたし)を乗(の)せて出発(しゅっぱつ)しました。車窓(しゃそう)から眺(なが)めますと、外(そと)は相変(あいか)わらず暑(あつ)そうです。

車(くるま)も渋滞(じゅうたい)しております。歩道(ほどう)に目(め)をやると、退社時(たいしゃどき)なのか大勢(おおぜい)の人達(ひとたち)が皆(みな)マスクをして忙(いそが)しそうに歩(ある)いています。

私(わたし)は窓(まど)を開(あ)けて眺(なが)めましたが、いつもの騒音(そうおん)は全(まった)く聞(き)こえません。

そして、懐(なつ)かしい知人(ちじん)の姿(すがた)も見(み)えましたが、何故(なぜ)か私(わたし)は声(こえ)をかけずに道行(みちゆ)く人達(ひとたち)を眺(なが)めていました。

私(わたし)はまた窓(まど)を閉(し)めました。赤(あか)ちゃん達(たち)は皆楽(みなたの)しそうに遊(あそ)んでいます。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『地獄・極楽列車 私と青鬼』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。