カナダ編

バンクーバーでカナダの土を踏む

バンクーバーに翌朝無事着陸、機内であまり寝ていないので眠くて疲れた。

新移住者は別室で入国審査官の面接を受けた。彼は大きなテーブルを前にカイゼル髭を蓄え勲章を付けた制服を着て悠然とソファに座っていた。

会話がうまく通じないので気が焦るばかり、パスポートと移住ビザに入国許可の大きなスタンプを押してくれた。悠長なものだった。

トロントへ大陸横断に当時六時間かかった。地球の自転と反対方向に飛ぶので、夕暮れが急速に迫る。やがて大海の上に出て遥か水平線に日が落ちるのが見えてきたが、それは海ではなくスペリオル湖だとわかった。

スポンサー ミスター−ディーン

トロントに着陸した時はとっぷり暮れていて闇に包まれていた。

大きなトランクを持ってゲートを出ると人待ち顔の大柄の老人と傍に二人の若い東洋人が立っていた。その老人がスポンサーだと思った。

フォルクスワーゲンのバンで空港ターミナルを出てしばらく行ったところで清潔で簡素なつくりのレストランに入り食事をとった。話しかけられても思うように言葉にならなかったが何とか意思は通じたようだった。

二人の若者は従弟同士の中国人でマカオの出身だといった。老人はミスター‐ディーンと呼ばれていた。食事のあと車は通りに沿った一軒の小さな店の前で駐車、老人と政裕はそこで降ろされ、若者二人は車で去っていった。

建物の中に入り荷物を持って入口近くの階段を降りた。そこは地下室で物置に使われているような場所だった。そこでカナダでの第一夜を過ごすことになった。片隅に老人のベッドがあり、政裕は長椅子に寝ることになっていたのだ。

背広を着たまま横になった。疲れていた。日本で録音してきたカセットの歌を聴きながら眠りについた。ヨーロッパ旅行で体験した西洋とカナダの現実があまりにも違いすぎた。

翌朝、シャワーと浴室がないことに気が付いた。旅の汚れが下着にしみついている。ミスター‐ディーンにこのことを聞くと洗面台でタオルをお湯で湿らせ体を拭けばよいという返事だった。カナダではこんな生活が普通なのか。

二人で朝食をとりに外出した。通りの反対側にある小さい間口のレストランでトーストと目玉焼きを食べた。

政裕が悄然としていたのか彼は励ますように何も心配することはないよといった。彼の店は屋根に使うFRPパネルの販売店だった。イエローページの広告からもっと規模の大きな会社かと思っていた。

彼は政裕をエンジニアとして雇うつもりではなさそうだった。ではなぜ、政裕のスポンサーになってくれたのか。店の一角にテーブルがありそこに彼が座る。