少し怯えながら周りを見回し歩く。気持ちが萎えたタケルはお弁当の店に行く気を失くした。いつものコンビニに自然と足が向いた。

駅前は品ぞろえも良いが客も多かった。だが、このコンビニは客が入店するたびに店員が『いらっしゃいませ』というセリフを繰り返し、まるでテープのようだった。

今日はいつもより早い帰宅なのでノンアルコールビールを二缶買ってみた。少しだけ幸福感に似た何かがタケルを高揚させた。いつもよりもたくさん買い物をしてしまった。

先ほどの事故を早く忘れたかった。忘れるべきだ。もっとも、肘の痛みがそうさせてはくれないが。

レジには四、五十歳くらいだろうか、スタイルは細くていいのだが年齢が顔に出ている、モデルのような服装の女性がけだるそうに並んでいた。前でタバコの注文をしている中年オヤジがはっきりしないもので女性は明らかにキレかかっていた。

ベージュのロングスカートに黒のざっくりとしたニットにファーの短いブルゾンがおしゃれだ、あと少し若ければと思った。

左手には大きなブランドものの財布を持ち、かすかに香水の香りが漂う。嫌悪感はないが、タケルの母が地味な女なのでこういう人を見ると構えてしまう。

タケルは会計が終わった後、店の外に出た。目の前の信号待ちの高級外車に、先ほどの女性の姿を見た。どうすれば自分の年収をはるかに超えるような車に乗れるのだろうか?

世の中の矛盾を感じて、とぼとぼとマンションまで歩いて帰った。そこには見慣れた家賃五万円のハイツがタケルを待っていた。

築年数は三十年を優に超えている。今日はまだ、九時過ぎだった。タケルはDVDの映画を見ながら食事をとった。焼き鳥弁当とスティック野菜はまあいい感じで、噛んでいるうちに満腹感で満たされた。

ノンアルコールビール以外に、冷蔵庫にあった古いコークハイを飲んだ。久しぶりのアルコールに酔いが回り、眠くなってしまいうとうとしていた。

ソファに座ったまま、瞼が下がってくる。

抵抗むなしくタケルの意識はDVDから違う世界に迷い込んだ。どうでもいい昔の映画だった。

※本記事は、2020年7月刊行の書籍『双頭の鷲は啼いたか』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。