第四話 父の遺言(ゆいごん)

ロレンソから追い出された男は、復(ふく)しゅうするために、農園を出て山の方へ向かった。

山の奥には、麻薬の売買をしている武装グループが暮らす村があった。初めは貧しい農民からコカインの原料となるコカ(8)の葉を買い取り、他の武装グループに売っていたが、そのうちに自分たちで栽培する方がずっともうかることを知った。

そのためには、警察や軍隊や他の武装グループに見つからずに、コカの木を栽培できる土地が必要だった。

男が向かったのは、そんな武装グループの一つで、土地を手に入れるためには、人殺しも平気な男たちが集まっていた。

しばらく、静かな日々が続いた。ロレンソは男をやめさせたことをすっかり忘れていた。

そんなある日、突然、凶悪(きょうあく)な男たちがミランダ一家のコーヒー農園を襲った。悲劇は一発の銃声(じゅうせい)から始まった。

男たちは、銃でおどしながらロレンソを椅子に座らせてしばりつけた。それから、椅子の下に爆薬(ばくやく)を置き、ロレンソが椅子から離れたとたんに爆発するようにして、引き上げてしまった。

「ロレンソ!」

マリアが叫(さけ)びながら走りよろうとした。

「危ない。近寄ってはダメだ。爆発するぞ」

「警察を呼んで!」

マリアが後ろをふり向いて叫んだ。叫び声を聞いた使用人がすぐに走っていったが、しばらくして一人で帰ってきた。

「警察は? どうしたの?」

「それが、すぐ行くって言うばかりで。俺にもよく分かりません」

しかし、一時間たっても誰も来なかった。知らせを聞いて、フリアンが駆けつけてきた。

「警察に知らせたのに、誰も来ないのよ」

マリアが叫ぶと、フリアンは吐(は)き捨てるように言った。

「あの警察は、麻薬を作っているやつらに買収されているんだ。助けてくれないどころか、襲いかかってきてもおかしくない連中(れんちゅう)だよ。あてになんかできるものか。自分たちでやるしかない。ロレンソ。だいじょうぶだ。私が外してやるから、安心しろ。私はエメラルド鉱山で働いたことがある。爆薬のことならよく知っている」

フリアンは、人々を遠ざけてから爆薬を外しにかかった。マリアとフランシスコは、必死に祈りながら見ていた。

二時間が過ぎたころ、ロレンソは、マリアとフランシスコに少し近くへ来るように言った。二人はロレンソをめざして走った。

「ダメだ。それ以上、近づくな。私の言うことをよく聞くんだ。この農園は今はとても危険だ。お前たちはここを出て、町へ行きなさい。でも、こんなひどいことはいつまでも続かない。必ず、平和な時が来る。そうしたら、また、この農園に帰ってきてコーヒーを作り続けてくれ。それまでは、ここに戻ってくるんじゃない」

「父さん!」

「ロレンソ!」

「さあ、分かったら、もっと離れた所へ行きなさい。早く」