僕にはきっと無理だ

普段は 新聞をこまめにチェックして 世間では“社会派”を装っている僕だけど

心の底では 君とうまくいきさえすれば 

この国の将来がどうなろうが さほど関心はない

社会的弱者への温かいまなざしも 貧しい者への慈悲の心も 性欲の前では敵わない

どんな高尚なことを語ってみたところで 

結局 人間なんて 世界平和よりもセックスについて考えたがる動物なんだよ

世界を揺るがす経済危機よりも この国の政治の劣化よりも

今晩のセックスが成功するかの方が大事なんだよ

君とセックスするよりも人生で楽しいことを 今の僕は見出せない

「恋愛にしか喜びのない人生なんて つまらないとは思わないのか?」

「恋愛よりもかけがえのないものがあることに 気付かない人間は馬鹿だ」

二週間前の飲み会で 憐れみを含んだ目で 上司に そう諭された

酒の力を借りて すかさず僕は反撃に出る

でも部長 お言葉を返すようですが

あなたや 最近話題の ノーベル賞を取った あの世界的な堅物(かたぶつ)の科学者にだって

最愛の妻と 子どもが二人いる

「この世の中には 恋愛より大切なものがある」という人に限って

私生活はちゃっかり満たされているから詐欺だ

配偶者を亡くした時に あなたは同じことを言えるのか

あの堅物の科学者さまも 真理を発見するための学術研究とやらに

今までどおり打ち込めるのか

“社会の矛盾を鋭く突いた問題作”と評された映画のラストが 往々にして

「身近な人々に対する親愛の情なくして 本物の愛を語ることなかれ

真の平和は 目の前の人間・家族を愛することから始まる」

……なんて ありふれたオチになるのは 一体どういうことなんだ!?

君との関係は思いどおりにいかず 相変わらず不安定だ

きっちりと確実に 性欲を処理できる相手を手に入れたら

二十一世紀に人類が進むべき道筋について 自分はどう関わっていくべきなのか

真面目に考えることにするよ

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『愛は人を選ぶ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。