鳩のミステリー・サークル

「あんた、役所に雇われたガードマンだろう。初日からサボりかい?」

「別にサボってる訳じゃありませんよ。十二時から一時迄は決められた休憩時間なんです」

「休憩時間だ? ゼイタク言うんじゃないよ。そんな勝手なことするんなら取り代えるように役所に言うよ。あのガードマンはしょっちゅうサボってるってね」

「参ったな。何かそちらさんに失礼なことをしたのなら謝りますよ」

「ふん、泣き落しかい。その手は通用しないよ。ちゃんと監視してるからね」

吐き捨てるように言うと、くるっと身体を廻した。それ迄全く気付かなかったのだが、この老婆の後ろにもう一人老婆がいた。

顔も身体もチマチマっと小さい。やはり六十代だろう。毛糸のスキー帽みたいな帽子をかぶり、黒っぽい上下の服を着ている。私と目が合うと、チラっと笑顔のようなものを見せ、大柄な老婆の後を追って鉄柵の欠けた所から裏の公団住宅の方へ抜けて行った。

初日からこれ程ひどいキャラクターに出会うとは全くツイてない。しかしなぜ、初対面の私にこれ程の憎悪をぶつけてくるのだろうか?

二時頃から赤ん坊や幼児を連れた母親達がやって来た。幼児は遊具で遊ばせ、彼女達はベンチに腰かけてベビーカーの赤ん坊をあやしながらお喋りしている。

近づいて行くと笑顔を向けてくれた。

そして、私がいつまでここでパトロールするのか訊くので、予定では十日間の契約だと告げると、ここへ常駐して貰える様に、皆で役所へ陳情してみようか、などと言ってくれた。

ただ、鳩の死とミステリー・サークルについては、噂には聞いている、程度の知識しか無かった。

また、鳩に餌をやっている人を見たかどうか訊いてみたところ、見たことは無い、と全員が首を振った。今後何かあったらよろしくお願いします、と頭を下げてそこを離れた。

五時に役所の防災無線が、よい子はお家へ帰りましょう、と変なアクセントで流れてきた。

辺りは暗くなってきた。

五時四十五分に警備報告書に記入して自転車に乗った。寒くなってきた。

十字路を渡って左折し一キロメートル程走って役所に着いた。

公園課にまだ小原係長が残っていたので報告書を渡した。

「何かありましたか?」

「特別には、ありませんでした」

「そうですか。ご苦労さまです。明日もよろしくお願い致します」

私は礼を言って役所を出た。会社へ電話して下番報告をして帰宅した。

第一日は無事に終った。悪態をつかれた不愉快さはあるが、まァこの程度ならよしとしなければならないだろう。