夢解き

豪邸というほどではないが、ベージュ色の洒落たこの二階建ては、「洋館」という言葉が似合う家と言って差し支えないだろう。蔦を象った鉄の門扉を通り、「WELCOME」と書かれた木札の掛かった玄関扉を開けると、父がよくゴルフに行く時に履く靴が脱ぎ捨てられていた。

土曜日と日曜日は家政婦の鈴子さんが休みである。今日は土曜日。父の靴なんて、本当は放っておきたい。だが、このまま家に上がるということが、どうしてもできない。私は、その靴の埃を適当に払い落し、靴箱に仕舞って居間に入った。子供の頃から躾けられたことは、そう簡単に変えられないのだ。

「ただいま。お母さん、もう、お父さん帰ってるの? 接待で遅くなるって言ってたのに」

現在、午後十時ちょっと前。吉田海人には、駅まで送ってもらい、電車で帰ってきた。まだ接待という名の仕事中だろうと思っていた父が、どうやら私より先に帰っているようなので、驚いた。

「おかえりなほ子。お父さん軽い熱中症になったって、昼にはゴルフ場から帰ってきたのよ」

日頃、体調管理が出来ないようでは社会人失格だ、などと言っている父が寝込んでいるとなれば一目見たいものである。私は早速、父の寝室に行った。

「ただいまお父さん、熱中症ですって?」

「随分、遅かったじゃないか。こんな時間までどこに行ってた」

「お母さんにはちゃんと飲み会だって言ってあるし、門限には間に合ってますけど」

そう言いながら、おかえりも言わない父と目を合わせた瞬間、私は小さく「あっ」と言って、持っていたバッグを落としてしまった。

父と神﨑静真の顔がよく似ていたのであった。卵型の顔に、流れるように整った眉の下の二重瞼、すっと通った鼻筋、そのどれもが似ている。そして二人とも和風の印象である。

似ていないのは目だ。静真の目は漆黒の瞳だが、父のそれは薄い茶色で、獲物を追う野獣のような光を放っている。父とはあまり顔を合わせないようにしているし、醸し出す雰囲気が全く違うため、今、父の顔を見るまで二人が似ているとはまるで気がつかなかったのだ。