その頃、達郎は、智子を亡くした衝撃も、彼女の不倫の相手である井上をふとした弾みで殺してしまった悔恨も、脳裏から消えつつあった。

ところで、智子が交通事故に遭った当日の夜、食事をすることになっていた総務部の吉沢美里とは、梅雨が明けてしばらくしてから、その当初の約束を履行していた。

その日、彼女をエスコートした達郎は、二軒目のワンショットバーを出た所で、いきなり彼女の唇を奪った。女房を亡くした中年の男らしく、ゆっくり時間をかけて、口説くべきだったのかもしれないが、必要以上に大事に行き過ぎると、失敗に終わるケースが多い、と女好きの友人からきいていたので、一気呵成に攻撃した。それが功を奏した。結果はとんとん拍子に進み、二度目に会った時にはベッドインしていた。

夏は新盆だったので、表向きは派手な行動は取れなかったが、それでも八月の終わりの土日を絡めて、三泊四日のグァム島旅行に、美里と二人で行ってきた。もちろん、会社内には内密にしておいた。

秋になって美里との恋は一層燃え上がった。達郎は、十年以上年の差がある美里が可愛くてたまらなかった。美里は、性格は穏やかで、おっとりとしていたが、夜になると豹変した。その変わりように、達郎は驚愕したが、それもうれしい悲鳴だった。

年若い美里との逢瀬を楽しみながら、新しい年が明けた。

その頃になると、智子や井上の事件のことなど、記憶の彼方に消えかけていた。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『店長はどこだ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。