十一月半ばから、受験勉強と並行して志望校の面接対策にも力を入れた。忘れ癖のハンディ対策として長所を強調し、短所については最小限にし、質問をさらりと交わす模範解答用の練習帳を作成し、連日のように口ずさんだ。

「この学校の選択は誰と決めましたか」「母と決めました」

「長所と短所は何ですか」「長所は部屋の掃除と片付けです。短所は忘れっぽいことです」

「趣味は何ですか」「趣味は読書と散歩です。特技はソロバン準二段を持っています」

「将来の夢は何ですか」「パン屋さんです。おいしいパンを作ってお客さんを笑顔にしたいです」

「普通校と特別支援学校との違いは何ですか」「支援校では教師が丁寧に教えてくれます」

「お手伝いは何ができますか」「皿洗いやガスコンロ磨き、お米たき、トイレ掃除、部屋の掃除です」

猛勉強からくるストレス性の頭痛、肩こり、目の痛みに苦しみながら、連日面接用の練習帳を持ち歩き、反復練習を重ねた。 

高校入試を終えた一月末、B子が「先生、合格しました!」とVサインをかざして診察室に現れた。嬉しそうに語るB子に面接内容を聞いてみると、繰り返し覚えた応答問答集からかけ離れた問答になったらしかった。結果的に長所を省き、短所を強調する問答になってしまったらしいのだ。

「あなたの長所、短所は何ですか」「私の長所は部屋の片づけです。短所は忘れっぽいことです。教科書や体育着などすぐ忘れるので、それを乗り越えるために手にメモ書きして、頑張りました」「あぁ、手の平に書いたんですね」

「中学校で頑張ったことありますか」「勉強です。忘れっぽいのでがんばりました」「そうですか、努力したのですね」

質疑応答がエスカレートし、つい、逆質問をしてしまった。

「先生、お聞きしたいことがあります」「何ですか」「入学できたらアルバイトしてもいいですか」「なぜですか」「人とのコミュニケーションを高め、将来に役立てたいからです」

「こういう逆質問は初めてです……」面接終了後、校庭に集まった保護者達の前で、B子がおもしろおかしく面接内容を語る姿を見た他校の中学校教師が「逆質問なんて初めてだ! こんな子、見たことない! まるでトットちゃんみたいだ! 天才少女だ!」と叫んだという。

そういえば、B子のお母さんだって、失敗を笑い飛ばすあたり、トットのお母さんのようなおおらかさがある……、と私もそう踏んでいる。

診察室で母親は、こうも話していた。

「この子はウソはつけないので、つい本当のことを言ってしまうのです。今回の面接も苦手なことを言わないようノートを作成して反復練習していたのに、本番では忘れっぽさを強調する面接になってしまいました。話が弾むと、どんどんエスカレートするのでいつもハラハラさせられます……」

高校受験後、IQ検査を行ったところ、中学一年の最悪の体調の時に受けたIQ検査より大幅にアップしていた。

沖縄のトットちゃんは今、新たに高校生活にチャレンジを始めたばかりだ。

※本記事は、2020年3月刊行の書籍『爆走小児科医の人生雑記帳』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。