高齢期の幸福について―健康、お金、親子関係……

ロンドン・ビジネス・スクールのリンダ・グラットン教授が「人生一〇〇年時代」の生き方について提言した『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』は、日本でも大いに読まれました。多くの人が長寿を自分ごととして捉えるようになっているとともに、長い高齢期をどう生きればいいのか、その迷いの大きさが表れたものでしょう。

漠然とした不安、悩ましさが高齢世代だけではなく、いずれ高齢期を迎える若い世代にも広がっているに違いありません。不安を解消するには、高齢期について正しく理解することが重要に決まっています。

ところが多くの人は、メディアがよく取り上げる病気や介護や貧困などに苦しむ高齢者の様子を見て、(それは往々にして極端なケース、少数の事例なのですが)それが高齢期の普通の現実のように思い込んでしまっています。身近に元気で幸せそうなお年寄りを見かけているのにもかかわらず、メディアで流れているほうが本当の姿だと考えてしまっている。

では、本当の実態はどうなのか。ここでは、データや様々な理論に基づいて高齢期の実態を見ていくことにしましょう。

高齢期の幸せ幸福感はU字カーブを描くという事実

「加齢のパラドクス」という言葉があります。高齢期には身体の機能や容貌などが衰えていき、また、様々な喪失(職業、収入、配偶者、友人、子の独立など)を経験するため、普通に(特に若い人の視点で)考えれば、徐々に幸福感が低下していくはずなのに、実際には高齢者の幸福感はだんだんと上昇していくという、一見、矛盾した現象のことをいいます。

これは、日本を含めて世界の国々で共通にみられる現象です。最近の研究(二〇一九年)でも、アメリカ・ダートマス大学の経済学者・デービッド・ブランチフラワー教授が世界一三二カ国のデータを分析し、人生の幸福度が最低になる年齢の平均は先進国で四七・二歳、発展途上国では四八・二歳であると発表しています。

幸福感を縦軸に、年齢を横軸にしてグラフにすると、全ての国で一八歳くらいから幸福感が低下していき、四〇歳代後半で底打ち、その後は上がっていくU字カーブになります。

では、なぜ高齢期に幸福感が上昇していくのでしょうか。この問いに、多くの研究者が説明を試みています。それらの説を表にまとめました。

写真を拡大 [図表1] 6つの説