運動会も近づいて、体育の時間に、フォークダンスの練習が始まった。亜紀と真一が踊る順番がやって来ると、妙に意識してぎこちなかった。

亜紀が、苦笑いを浮かべると、真一は怒った。

「笑うな」

「だって、どうしても山下君のこと、意識し過ぎてしまうんだもん」

「他の生徒が見ているから、やめろ」

「うん、分かったよ」

もとの鞘におさまって、亜紀は、黙って真一と踊った。

運動場で、普段から亜紀をいじめている女子生徒を見ると、真一は突然、侮蔑するように声を立てた。

「あんな女の子、嫌いだな」

それを聞いた他の女子生徒が互いに顔を見合わせた。

「やっぱり、山下君、亜紀に惚れているんだ」

ひそひそと、亜紀の周りで囁いた。亜紀は、何が起こっているのか、その時、よく把握できなかった。

やがて、亜紀が放課後に一人でいると、女子生徒が数人、囲むように集まって来た。一人が言い放った。

「山下君、亜紀に、ほの字なんだよ」

「えっ、どうして分かるの」

「体育の時間に、山下君を観察していれば勘が働くよ」

「みんな、推測を働かせているんだな」

亜紀は驚いてしまった。

それからというもの、亜紀と真一の関係は、噂で持ち切りになった。亜紀は、恋人の関係否定に苦労した。

「山下君との関係は、友達以外の何ものでもないんだって」

友人は、みんな勘ぐった。

「えー、もう、恋人として付き合ってるんじゃないの」

「違うって、そんな関係じゃないんだって」