メンタル症状と認知症

認知症は脳の病気であり、一方、メンタルな症状も脳の働きが原因なので、認知症が原因で精神症状が出てくることがあります。認知症が中等度に進行してくると、BPSD(behavioral and phychological symptoms of dementia、認知症による行動・心理症状)と呼ばれる異常行動などがしばしば見られます。

典型的な症状としては、実際には見えたり聞こえたりしないのにそう感じる幻視・幻聴、物盗られ妄想や被害妄想などの妄想、自分の意思に反した時などに強く見られる暴言や暴力、そして徘徊などです。

これらの症状が出る背景として、認知症には知能の低下やそれによる理解力の低下があります。わからない、理解できないので、不安に感じたり、怖く感じたりして、幻覚を感じ、妄想を信じ込み、反応として暴言や暴力が出てしまいます。

自分の時計や財布をどこかに置いてしまい、でも置いたことはすっかり忘れているので、自分が置き忘れたという自覚はありません。今、自分の財布がない、という事実があるだけです。誰かが盗ったのだろう、そうすると身近にいる人がやったに違いない、と理論づけてしまいます。不思議なことに、そう理論づける神経回路は働いているわけです。

こういった認知症に伴った精神症状は、比較的理解しやすく、対応の仕様があります。本人の訴えを、頭ごなしに否定せず、相槌を打ちながら聞いていると、しゃべっているうちに気持ちが落ち着いてくることが良くあります。また、物忘れの進行もあり、こだわりもそう長続きはしないので、気分を変えてほかのことを考えるように仕向けることができたりします。

ところが、認知症の高齢者の中には、強いメンタルな症状を表す人もいて、そういう場合には対応がとても困難になります。

特徴としては、まず知能は比較的高いことが多いです。そのため認知症の知能テストをしても検出されず正常と言われて、認知症と診断されないことがあります。しかも、そういう人は、テストされるとなると、普段よりも頑張って良い点数を出そうとします。

さらに、相手を見て態度を変えることがしばしば見られます。病院に行ったり、診察の場では、神妙にしていたり言うことを聞いたりするのですが、自分の家だったり、相手が家族や介護者だったりすると、途端に扱いにくくなります。

2人以上の家族がいれば、いつも決まった人(大抵はご主人)をターゲットにして責めたり、反発したり、暴言を吐きます。施設で介護されている高齢者では、決まった介護者をいつもターゲットにして責め抜き、職員が耐え切れずに辞めてしまうことさえあります。

特定の人を責める内容は、「(自分の物を)盗った、隠した、壊した」「自分の悪口を言っている」などです。「女のところへ行っている」とか「色目を使った」などという嫉妬妄想のこともあります。「それは違う」と言い訳をしても、本人はより怒りを増すだけで、人の話に耳を貸そうとしません。