比較

女は三枚におろしてそぎ切りにし、生醤油で食うのが一等旨い。しかし冬は大根、牛蒡、人参などたっぷりの野菜とともに女のぶつ切りを炊いたのも、体の温まるご馳走で、なかなかに捨てがたい。

また女の煮凝りもいい。まとわりつくような舌触りがたまらない。一方、男はそのままでは食えないので「へしお」にする。へしおは男のぬか漬けのことである。これはうまく漬ければ一年近くもつ。

へしおを漬けるには、本漬けの前にまず塩押しをする。頭をもぎ、内臓を取り出した男をていねいに一本ずつへしお用の桶に並べる。一層ができると塩をふることを繰り返し、押し蓋と重石をのせて一週間ほど置く。このとき、塩を惜しんではならない。塩をたくさん使えば仕損じることはない。

塩押しのときできるしえと呼ばれる塩漬けの汁は、本漬けのとき必要なので、いったん煮立て、浮き上がってきた脂やごみをすくって捨て、本漬けにするまで置いておく。本漬けは、桶の底に薄く米ぬかをふり、一本一本男を行儀よく並べ、一並べしたところで、すき間のないように米ぬかをふるう。

桶がいっぱいになるまで男を並べて米ぬかをふるい、一番上に唐辛子や山椒の葉を置く。最後に塩押しのとき残しておいたしえを桶の中へ十分にしみ込ませ、押し蓋をして重石をのせ、少なくとも半年は漬けておく。

そんな苦労をするくらいなら、男など食わねばよいようなものなのだが。

しかし、へしおをぬかを落とさぬように取り出してこんがりと焼き、ちびちびと熱燗をやるのは冬の夜のこの上ない楽しみだ。女はそんな苦労をせず食えるものだが、腐ってしまうとどうしようもなく、捨てる他ない。男のへしおも傷まぬうちに食することをお勧めするが、腐りかけた頃の風味を好む者も、いるにはいる。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『苦楽園詩集「福笑い」』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。