語学は赤ちゃんに学べ!ネイティブの語学脳を考察する

いよいよ学習について具体的に手ほどきしていきます。皆様の中にはどうやって英語を勉強したらいいの? どれから手をつけたらいいの? 単語? 文法? 会話? リスニング? など迷われている方もいるかもしれません。そこで、学習の成果をきちんと得るための重要なキーワードを5つ挙げていきます。学習に対しての動機づけや意識づけは必要ですよね。

初めは聞く・話すのオーラル面からアプローチをしていきます。リスニングで相手が何を言っているのか聞き取れずに悔しい思いをしたことってありませんか? 私もその思いを持った一人でした。

特に日本人のリスニングのウィークポイントとして、lとrの聞き分けが指摘されます。でもネイティブの人は難なく聞き分けができていますよね? 実際、英語が聞き取れるようになるまでに最低1000時間以上必要だと前の章の初めで数字を出しましたが、これには医学・生理学的な裏づけがあるからです。

そこで学習のヒントを探るために、赤ちゃんが言葉を学んでいくプロセスについて考えていきましょう。なぜ日本人には英語の聞き分けが難しいのかという理由ですが、アメリカの発達心理学者Patricia Kuhlが乳児に実験を行ってこれを解明しました。Kuhlによれば、英語と日本語の聞き取りの違いは、生後9か月くらいから出てくるそうです。

生まれたての赤ちゃんは、1年ほどかけて言葉を覚えていきます。最初に、生後1か月くらいでクーイング(「あ〜」、「う〜」など)という言葉のもとになるものを発し始めます。それから3〜6か月頃に喃語(なんご)(「あう」、「ばぶ」など)に移行し、周りの人の発音を真似することを経て、およそ1年前後で「パパ」、「ママ」などの単語の発語に辿りついていきます。

一番身近な親という手本から赤ちゃんは言葉を学んでいるんですよね。これは一般的に知られている赤ちゃんの言語習得モデルです。ところがKuhlの研究では、赤ちゃんは実は、聞いた言葉の音を統計的に処理して学習すると述べています。

具体的に説明すると、赤ちゃんは生後、言葉を話すために親や周りの人などから音声データをいっぱい取り込む必要があります。そのために言葉を聞き取って音声に関するデータを脳に貯め込んでいるわけです。そして、貯め込んだデータから音声を聞き分けるために必要な音を探っているのです。

このプロセスは生後約8か月頃まで続くので、日本人の赤ちゃんもLとRの聞き分けは実はできるのです。しかし、生後9か月頃から赤ちゃんは必要のない音声を区別するのをやめていきます。その区別するのをやめる音声が日本語のlとrの音の違いです。この違いは、英語のlとrの音の違いよりも差が小さいので、赤ちゃんは「そんなに大事やないさかい、区別しなくてもええっかあ。」となり聞き分ける必要がないと判断します。

故に、聞き分けの必要がない音は区別しなくなるので、8か月頃まで聞き取れていた英語のlとrの違いが日本人で聞き分けられなくなるのはこのためなのです。

逆に、英語のlとrの違いになると、赤ちゃんは「アカン。lとrの音は似てるけど大事やから区別せな。」と判断します。これによって、英語については聞き分けがより敏感になっていきます。

まとめると、日本人のネイティブは概ね生後9か月くらいから不必要な音を聞き分けなくなっていきます。これは赤ちゃんが言葉を学ぶ聞き分けの過程で日本語と英語の音声構造や音の領域の違いから出てくる現象で、これが日本人がリスニングに手こずる原因の根っこです。

では、苦手とするl、rの聞き分けを含めどうやってリスニングスキルを鍛えるかという話になりますが、量と質の2つを追求する必要があります。ここで、先ほどの赤ちゃんの言葉の学び方がヒントになっていくわけです。

リスニング学習では、「とにかく聞いて耳を慣らす」というように考える人が多くいます。これは間違いではありません。1000時間以上の量が必要なのも、赤ちゃんは言葉を覚えるために必要な音声を取捨選択し、その処理を正確に行わないといけないことからデータがいっぱい必要になるので、時間も相応にかかるからです。ですので、一定の量については確保していきましょう。

ただ、聞き流すだけでは正直リスニング力のアップは大幅には難しいかもしれません。これが聞きたいという意識や何をテーマに聞き取るか、学習の意図を明確にすることが大事です。

赤ちゃんは言葉を無意識に聞き流しているのではありません。自分もコミュニケーションを言葉でとるために、親や周りの人が話すことを理解しようとしているのです。要するに、英語リスニングの理論的なねらいは、音の違いを聞き分けてlやrなどの重要な違いをより敏感に区別して聞き取りができるようになり、それを言葉に発する段階までもっていくということです。従って、無目的に聞いてるだけでは学習の効果は緩やかなのですよね。

さらに、量に加えて大事なキーワードがここで登場します。質も確保するために「シャドーイング」などでうまい人の発音を聞いてまねていきましょう。シャドーイングとは、英語の音声を聞きながらあとを追うようにまねをして発音する学習方法です。私も渡英後にシャドーイングを盛り込んでからは学習の質がやはり変わりました。上手い人をお手本にしてまねていくと、上達も経験値の積み重ねと相まって早くなります。聞くことも大事ですが、これを音に出して発することで記憶に残り、自分の発音の質の向上が図れるわけです。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『電車で学ぶ英会話』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。