その謎、わが母校がはじまり

自分の部屋に男友達が泊まった次の日。和枝がせめて味噌汁だけでも作ってやろうとすると、断固としてそれを拒否した。和枝の手料理は、たとえ味噌汁だけでも他の男に飲ませたくなかったのである。

対する和枝は義理堅い性格だ。稔がいつも世話になっている友人たちに、朝起きて何もないなどと失礼な振る舞いはできなかった。長い押し問答の末、ついに稔が目に涙をいっぱいに溜め、突き出した下唇を震わせて「いやだぁ」と地団太を踏み出した。二十歳を超えた大人である。熟練の地団太はキレッキレで、相手に有無を言わせない、圧倒的なしょうもなさがあった。

和枝は驚きと笑いをこらえるので精いっぱいで、その場を譲った。それ以降二人は一度も喧嘩らしい喧嘩をしなかった。稔は九州男児特有の、俺についてこいタイプと呼べば聞こえは良いが、「こうしようか」と希望を言うだけである。それが「先輩の言うことは絶対」という体育会系の和枝にとっては、一言も反対せずに遂行していくというミッションになっていた。

デートをするときは、稔の好物を食べ、稔の唯一の趣味であるオーディオを見に、大学があるお茶の水から秋葉原までひたすら歩いた。唯一の共通点といえば、大学ラグビーが好きということだけだったが、それでもうまくやっていた。

勝手にマスオさん

稔は顔こそ綺麗に整っているものの、ガリガリでいつも寒そうな服を着て、頼りない風貌だった。しかし見た目とは裏腹に、絶対にめげない男だった。失敗しても、どんなに不利な状況でも、めげる暇があったら、冷静に状況を見据えて「なにくそ」と底力を出し、次のチャレンジに備えることができた。

和枝ははっきりとした顔立ちで、肉付きも良く、強そうな見た目を裏切ることなく怖かった。彼女には失敗など存在しない。何故なら彼女自身が正義だからだ。だから少しでも気に食わないと強い口調で論破しようとしたし、本人は「怒ってないもん」と口では言うが、すでにそれが怒っていた。常に何かにキレていると言っても過言ではない。