鳩のミステリー・サークル

私は右側の門柱のところから自転車を中へ入れた。三台のベンチの一番奥を基地と決めその後ろに自転車を停めた。リュックサックをとってベンチに置き、会社へ上番報告をした。制帽をかぶり、寒いので外套は着たままにした。

そこへ、入口のところに自転車を停め、男性が早足で向かってくる。派手なオレンジ色のジャンパーが目立つ。

「ご苦労さまです。私、公園課の小原と申します」

きちんと両足をそろえて頭を下げ名刺を差し出してきた。長いこと警備士をやっているが、役所の人でこれ程丁寧で礼儀正しい人は初めてだ。私はあわてて礼を返し、名前を言って首から下げた写真入りの身分証を提示した。小原氏の名刺には“公園課係長”とあった。

「お願いするのは公園内のパトロールです」

小原係長は説明しはじめた。

「公園の内外をパトロールしていただいて、不審者、野良猫や鳩に餌やりをする人、犬を散歩させて糞尿の始末をしない人、タバコの吸い殻を捨てていく人、家庭ゴミを園内のゴミ籠に捨てて行く人、その様な人物を見かけたら注意して下さい。おわかりでしょうが、くれぐれも強い言葉を使用しない様に。よろしいですか?」

「はい、わかりました。つまり一種のキャンペーン活動のような業務と考えてよろしいでしょうか?」

「はい。ただ、実際にはあまり面倒な人は来ないと思います。今回警備をお願いしたのは制服姿の警備士さんが、園内をパトロールしている、という事実を周辺の皆様に知らしめる、そうして下さればよいのです」

「制服の持つ、一種の抑止力を使おうというわけで……?」

「おっしゃる通りです」

「もし差しつかえがなければ、お聞かせいただけませんか? 何か事件でもありましたか?」

「実は……」

小原係長は一寸考えていたが、

「うまく説明できないのですが……野原さんは、ミステリー・サークルってご存知ですか?」

「ミステリー・サークルですか? 知りませんが……」

「私も知りませんでした。それが、その、若い議員さんの受けうりなんですが、畑や草原などで、作物や草がなぎ倒されて、それも綺麗な円が描かれている、ということがあり、これをミステリー・サークルと呼ぶらしいのです。実は先日、この公園でも鳩の死骸が九羽、頭を内に向けて放射状に並べてありました。鳩の死骸を使って、ミステリー・サークルがつくられていたのです」

三日前の早朝、ラジオ体操に来た老夫婦が発見、十字路を右折した駅前にある交番に知らせた。交番から役所の公園課に連絡があって、まだ出勤していなかった小原係長が、呼び出されて急遽現地へ駆けつけたのだと言う。死骸の処理は公園課で行った。

「小動物などの死骸はできるだけ早く焼却処分にします。伝染病が恐いですから」

そして小原係長は少し声の調子を落した。