山口百恵と新聞配達 平成十七年十一月十八日掲載

今年「赤いシリーズ」のドラマが復活して話題になりました。かつての主役は、伝説の人になりつつある山口百恵さんです。

先日、二十五年前のベストセラー『蒼い時』を偶然本棚の奥に見つけました。目次に新聞配達という文字を見つけ、読み返してみると百恵さんが中一の夏休み、朝の四時から約二百軒を歩いて配ったという内容が記されてありました。

読んでる途中「はっ」と高一のときのほろ苦い思い出が重なりました。

大粒の雨がトタン屋根に落下する音で目を覚まし、急いでカッパを着て自転車で一時間十五分、約百軒の旅が始まりました。慣れた手つきで新聞を縦に二つに折り、ポストのない家の玄関先に飛ばした次の瞬間、フワっと戻ってきて水たまりにボチャン。あわててタオルでふき取ってそっと置いていきました。

しかし、悪いことはできないものです。自転車のスタンドがぬかるみで倒れていて、前の籠に入っていた新聞の一部が水たまりに。目の前が真っ暗に、新聞はとろけそうになりました。

その新聞を、戸の隙間からそっと入れようとした瞬間、ガラガラと戸が開いて、「ご苦労様」の声。「ちょっと、ぬれちゃったんですけど」と苦し紛れに言うと、「いいですよ」と返ってきました。

百恵さんは水たまりに落として叱られたが、私は叱られなかった。後ろめたい気持ちを引きずりながらも、救われたその一言に人の心の温もりを感じ、今でも胸がじんときます。

親知らずと平均寿命 平成十七年十二月二十八日掲載

先日、職場の同僚が親知らずを抜いて熱を出しました。

親知らずの語源は「乳歯が抜けた後に永久歯が生えてくるが、親知らずはいきなり生えてくるので、先に生える乳歯を親と見立てて、親がない歯だから」という説もありますが「親知らずが生える頃にはもう親がいない」というのが有力のようです。

十七歳から二十二~三歳で親知らずが生えたとき、既に親が亡くなっているなんて、最近発表された日本人女性の平均寿命八十五・五九歳(二十年連続で世界一)、男性の七十八・六四歳を考えると信じられない気がします。

そんな矢先、サッカー日本代表がアフリカのアンゴラと対戦し、アナウンサーがアンゴラの平均寿命は四十歳と言ったとき、はっとしました。

調べたらアンゴラでは内戦などで、今でも地雷が一千万個以上あり、しかもマラリアなどで五歳までに命を失う子も多いということです。

二十世紀初めに欧米諸国で平均寿命が五十歳を超えたとき、日本人の平均寿命は三十歳代の後半を低迷していました。平均寿命が男女とも五十歳に達したのは昭和二十二年で、欧米におよそ五十年遅れたそうです。

それが今から二十年ほど前、日本人の動物性タンパク質と植物性タンパク質の摂取比率が一対一になったとき、日本は世界一の長寿国になりました。

結婚の早かった明治から大正にかけて、平均寿命が四十歳から四十五歳の時代に「親知らず」という言葉が生まれたと考えると、親知らずの語源の謎が解けた気がしました。

※本記事は、2018年7月刊行の書籍『日本で一番ユーモラスな理科の先生』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。