私は少し自分を落ち着かせながらこう返答した。

「私はさっき自分の子供が先に死亡したのを目の前で見て、今まで体験したことの無い悲しみと苦しみとは、こういう事なのだと分かったの。だから、あなた達は認めていない元父親にも、その悲しみと苦しみを分かってほしいのよ!」

「母さん、普通の実親ならその悲しみと苦しみは理解できると思うよ。しかし、あの男に関していえば、実子に元父親と認めたくないと思わせる程の、精神的苦痛や肉体的苦痛を長年にわたり与え続けてきた事を、まだ理解してないのかい。

母さんが考える一般常識的な考えを、あの男が同じように考える事が出来なかったから離婚したのだろう。僕には分かる。母さんの考え方を、あの男は生涯理解する気持ちはない。だから、期待しても無駄だから、直美姉さんの死亡の事は連絡しないほうがいい!」

「雄二はまだ親になって自分の子供が死亡した事がないから、現在の母さんの悲しみと苦しみが理解できないのよ。誰だって自分の子供が自分より早く死亡したら、現在の母さんの悲しみと苦しみを理解するわ。それでも連絡しないほうがいいと考えているなら、あなたの元父親には私から連絡をします。それでいいですね!」

そう返答すると、雄二は急に黙ってしまった。その様子を確認した私は、元夫だった赤羽光夫の携帯電話に電話をかけた。相手の呼び出し音が数回鳴った後、留守番電話サービスのアナウンスが開始されたので、ピーとなった発信音の後で伝言を録音した。

「赤羽さん。薬師ひろみです。あなたの娘だった薬師直美が死亡してしまいました。2日後の通夜と3日後の本葬には、元父親として欠席しないで必ず参加をしてください!」

そのあと、くわしく葬儀場所と連絡先などを録音してから電話を切った。そして、雄二の顔を見つめ返すと、連絡した事に対してはっきりと納得できない態度を表現していた。

けれど、私は雄二の腕を掴んで自宅に帰るように依頼し、その日は自宅に戻ったのだった。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『娘からの相続および愛人と息子の相続の結末』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。