子どもに適した学校を選ぶ

知り合い夫婦は2人の娘を学区外の公立小学校に通わせている。

学区の学校より校風が子どもたちに合っていると思うからだ。子どもたちも気に入っている様子。長女が就学するときに直接願い出て、入学を許可された。次女は姉がすでに在学していたのですんなり認められた。

公立の小中一貫校で教えるH先生も息子を自分が勤務する学校に通わせている。勤務校の雰囲気と教育方針が気に入ったからだと言っていたが、送迎が楽なことも理由の一つらしい。

父子で一緒に登校し、帰宅も一緒だ。併設の学童保育を利用しているので、勤務が長引いても安心していられる。日本の公立学校ではあまり例がないことだ。

同じ学校に通う父親(H先生)と息子(生徒)

日本では公立の小中学校は学区が決まっていて、居住地域によって通学する学校が指定される。就学年齢に達する子どもがいる家庭に役所から送られる就学通知書には「入学指定校」が書かれている。

これは法律(学校教育法施行令)に基づくもので、自治体内に複数の公立小中学校がある場合、住民登録に基づいて就学先が指定されるのだ。他市に居住する生徒を受け入れることもあるが、いじめや虐待などの特別な事情がある場合に限定される。

オーストラリアにも学区はある。小中学校だけでなく高校も学区制。だが、日本ほど厳格ではない。

保護者は前年度に開かれる入学説明会で学校の様子を把握し、子どもにふさわしいと判断したら入学願書を学校に提出する。個別の相談もできる。入学の可否は学校のポリシーに基づいて決定されるが、学区の子どもはほぼ無条件で入学が可能だ。

学区の学校が子どもに合わないと思ったら学区外の学校を希望することもできる。学校は学区内の生徒を優先的に受け入れるが、定員に余裕があれば学区外からも受け入れている。学区外の学校を希望する場合は前年度にその旨を学校に伝え、ウエイティングリストに載せてもらう。

早い者勝ちの場合もあるが、受け入れの可否を最終的に判断するのは校長だ。障がいのある生徒や、虐待などの理由で特別な保護を必要とする生徒、他校を退学になった生徒、その学校に勤務する教職員の子どもなどは優先的に受け入れられることが多い。

なお、公立学校でも選抜を行っている学校や特別支援学校は学区を指定していない。

また、通常学校で実施している選抜プログラムも学区外の生徒を受け入れることがある。いずれにしてもどの学校に行くかを決めるのは生徒と保護者なのだ。

だが、学区が定められているので、入学時には住所が学区内にあることを証明する書類を提出しなければならない。希望する学校に行くために転居したり、一時的に住所を移したりする例がないわけではないが、日本ほどではない。

そもそもオーストラリアでは、進学校やエリート校と言われる学校への入学に過熱する例は少なく、そうした学校を目指す生徒も限定されている。多くの生徒や保護者が、それぞれに合った学校で有意義な学校生活を送ることを大事に考えているように思える。

レベルの高い大学に行くためにレベルの高いハイスクールに行くという考えも日本ほど強くないようだ。大学に行くための学力は地元の学校でも十分につけられると考えられている。

学力は学校ではなく、個人の努力によって身につけるものだという考えが浸透しているのかもしれない。

家でも授業が受けられる

オーストラリアは遠隔教育が盛んだ。

遠隔地が多く、学校に通うのが大変な子どもが多いことが理由の一つだが、他にも、親の仕事などで移動が多い子ども、健康面の問題から学校に通うことが難しい子ども、海外にいる子どもなども対象だ。

さらに、特別な教育ニーズを有する子ども、妊娠中や子育て中の生徒も対象となる。

生徒はインターネットを使ったオンライン授業を受け、課題を提出する。無線や郵便、訪問教員による授業も行われている。

遠隔教育を担っているのが「遠隔教育学校」だ。

かつてはラジオの短波放送や無線を用いた授業が行われていたが、今はコンピュータが主流。テキストや課題もインターネット経由で送られ、各自で取り組み提出する。

質問があればメールを送り、しばらくしたら先生から回答が戻ってくる。他の子どもたちともネットでつながり、チャットなどで話し合いも行われる。最近はテレビ会議システムを使った授業も行われている。

だが、地域によっては通信速度が遅かったり、接続が切れたりすることもあり、完ぺきとは言えない。テレビ会議もまだまだこれからというところだ。スクールキャンプなども行われ、各地から生徒が集まることもある。

クイーンズランド州のチャーターズタワーズにある遠隔教育学校を訪ねたことがある。

州内に7校ある遠隔教育学校の中で最も古い学校だ。遠隔授業の様子を見せてもらった。

先生はブースごとにパソコンに向かい、相手の子どもとやりとりをしている。「課題はできた?」「何かわからないことはある?」スピーカーの向こうからは子どもの声も聞こえてくる。質問した生徒に先生が細かく説明していた。

教材や資料が置かれた部屋も見せてもらった。部屋の中には天井までのメールボックスがいくつもあり、生徒に郵送する教材が仕分けして入れてあった。

日本でも、新型コロナウイルスの感染拡大で全国の学校が長期間休校となり、オンライン教育に目が向けられているが、オーストラリアでの経験から学べることは少なくないように思う。

遠隔教育学校の様子