春には蕗の筋を取り、筍の皮をむき、それらを煮て香りとほろ苦い味を楽しんだ。初夏には梅干しを漬け、お彼岸には小豆ともち米を炊いておはぎ作り。母のお稲荷さんはみんなの大好物。煮あがったお揚げにみんなで酢飯を詰め頬張った。大きなすり鉢でゴマを擦っては青菜の胡麻和え、白和え作り。煮魚の翌日は、その汁でおからを作る。

お正月には父が削った鰹節でとっただしでお雑煮と鰊の昆布巻き。私の料理好きは母譲り。台所にみんなが集まり、そこで4人は大きく育った。

障子貼り、襖貼りは姑の役割。いつも器用に貼り替えてくれた。年中行事のそれを、子ども達は楽しそうに手伝っていた。破れた障子をびりびりはがし、こびりついている白い紙を雑巾で綺麗に拭き取る。濡れた障子の木枠を乾かす間に、冷やご飯と水を小鍋に入れてのり作り。

「舌切り雀みたい、おばあちゃんすごいね」。娘たちは何でもこなす姑を尊敬のまなざしで見上げていた。乾いた白木に刷毛で糊を塗り、しわが出来ないように綺麗に貼って乾かす。一連の作業を終え真っ白にピンと貼った障子を前にしてみんな満面の笑みだった。

どれも知恵と経験のあるお年寄りと一緒に暮らしたからこそ味わえた喜び。私と夫だけでは足りなかった愛と教えを、3人は惜しみなく与えてくれた。感謝しかない。

父が亡くなった時、近所に墓を建てた。そこはラベンダー畑の横で、父が毎日通った畑のすぐそばにある墓地の中。墓石の真ん中に彫る字を考えた時にすぐに思い浮かんだのは「感謝」の2文字。生きているうちには伝えられなかった感謝の気持ちをそこに刻んでもらった。

孝行のしたい時分に親はなし。長い時間を一緒に過ごすことは出来たけれど、親孝行は分からない。墓参りをする度にみんなが感じる感謝。たくさんの教えをありがとう。

温故知新おんこちしん 昔のことを研究し、そこから新しい知識や方法を得ること

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『ママ、遺書かきました』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。