「すみません、あと少しです」

見た感じでは半分ほどしか封入できていなかった。どこがあと少しなんだよ。これは心の声で、危うく口から出そうだった。

「今日の三時に郵便局が集荷に来るって昨日言いましたが。フロアの掃除は?」

できていないのは見て分かっている。タケルの苛立ちは更に加速した。

「あとでやります」

長い髪を纏めるようにと注意したのに、またその髪をかき上げていた。保護者が面談などでやってくるので服装はスーツに白カッターシャツ、カラーリングをしない髪は肩にかかればまとめると研修で注意があったはずだ。纏めないなら切ってしまえと思った。

「いや、もう、時間がない。入試前だから二時には早い生徒さんは来るでしょう。できないなら早く来てやってください。フロアの掃除は今日は僕がやります。発送だけは間に合わせてください」

タケルはなかばキレそうになりながら、椅子から立ち上がり、フロアに掃除機をかけた。

なぜ自分がこんなことまでしなければいけないのかと思うと頭に血が上るほどイライラした。だめだ、普段はこんなことでキレなかった。冷静だったはずだ。耐えるんだと思えば思うほど怒りが濛々と湧き上がった。

タケルは掃除機をしまってからロッカーを蹴り飛ばした。当たり前だが蹴った足が痛い。

午後二時頃にはもう生徒たちがやってくる。あと三十分もない。あの夢をふと思い出した。

タケルは気が付いていた、ストレスが溜まると自分を見失うことが多いということに。以前はこんな自分じゃなかった。そして、夜中に奇妙な夢を見ては飛び起きることの繰り返しだった。

月間報告書を発送することと自分が出すべき報告書、篠原さんがすべき掃除をして、どうせ発送の手伝いもしなくてはならないだろう。彼女のせいでまた定時には終わらない。

白昼夢の原因は重度の睡眠不足なのかと、ため息をつきながら壁にもたれかかった。けれど、タケルの頭の中には、夢に出てきた女の首筋の白さがはっきりと残っていたのだ。

授業が始まるまでのあいだ、外の空気が吸いたくて、窓を少し開けた。この校舎は個別指導専門なので、区切られた空間にホワイトボードがあり、講師一人に生徒一人が入ればそれ以上のスペースはない。

同性の講師と生徒の組み合わせでこのあと部屋はほぼ満員になり、狭いブースの中では講師と生徒たちの熱気で冬なのに空気が薄くなるほど暑くなる。夜の十時までは息をつく暇もない。