受験生がいる冬、家の中はピリピリする。居間のテーブルは散らかり放題、風邪ひけないと緊張するし大変だ。

春の訪れ、桜の花が待ち遠しい。

後から振り返れば人生の中のほんの一瞬でしかない時間だが、その渦中は長く先の見えないトンネルの中にいるようで苦しいものだ。

その点、我が息子は3年前、ずいぶんと能天気だった。その図太さには感服した。

センター試験まであと2か月しかない時期に「英文長文がスラスラ読める方法」とか「これ一冊で世界史が丸わかり」というハウツー本を買い漁って読んでいた。そして「まだ自分伸びしろしかなくて嬉しい」と真顔で言う。聞いているこちらは「頭大丈夫かな?」と心配しかない。

しかし、彼は私の心配をよそにまだ続ける。「高1から勉強してきた人は、高3の夏休みが学力のピークで、あとは右肩下がりになるんだよ」。どこの誰の受け売りか知らないが、呆れて二の句が継げなかった。

紅白歌合戦も、遊びに来ていた姉の超絶美人な友人と、この上なく嬉しそうに観ていた。

高校でも先生泣かせの問題児。3者面談の時は先生の困った様子が気の毒でさえあった。

ところがそんな彼にもちゃんと春が来た。「メンタル強いって大事なんだな」。合格通知を受け取った時につくづく思った。喜んだというより驚いた。

野球の試合で彼の名場面に遭遇することが一度も無かった私は、一人小躍りし小さく叫んだ。

「やった~! ヒデが一発逆転ホームラン打った~! バンザーイ」

あーちゃんも、きっと大丈夫。だってお兄ちゃんにそっくりなんだから。やる時はやるよ。春はすぐそこ。とにかく今は勉強しよう! 隣でママも書くから一緒に頑張ろう。

一陽来復は一陽来福。試練の後には福来る。それを信じて頑張ろう。

一陽来復いちようらいふく 冬が終わり春が来ること。悪いことが続いた後に幸運が開けること

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『ママ、遺書かきました』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。