努力や意志ではどうにもならない「眠気の発作」

患者自身、夜間に十分な睡眠を取ったり生活のリズムを改善したりする等、眠気に対して様々な努力を行っています。

しかし、努力や意志では日中、突然襲ってくる強い眠気の発作を抑えることは不可能です。

そのため、上司が目の前にいる重要な会議中に眠り込んだり、入学試験の最中に眠り込んで失敗をしたりといったことがしばしば起こります。授業中、仕事中、談話中等、患者それぞれが持つ社会生活の様々な場面で発作が起こるのです。

さらに未治療の場合、列車、船舶、バス、タクシー、乗用車等の運転中にも眠り込むことがあり、大事故につながった事例もあります。

発作による居眠りを患者自身が「病気である」と自覚していないことが多く、こと事故に至る場合は、適切な治療機会の逸失が、社会的な損失につながっています。

その他の深刻な症状「情動脱力発作」「ナルコレプトイド性格変化」「入眠時幻覚・金縛り」

ナルコレプシーには特徴的な症状として、眠気の発作の他「情動脱力発作」というものがあります。

これは、例えば友人と楽しく会話をしている時に笑ったり、面白い話をしようと得意な気持ちになったりした時等、突然、全身や頚、腰、下肢等の力が両側性に抜けてしまい、身体が沈み込んだり、ひどい場合には床に崩れ落ちたりするものです。

また野球や釣り等の余暇活動の中でも、上手く捕球をしたり、魚を釣り上げそうになった時に脱力発作が起こり、失敗してしまうということもあります。

さらに仕事の上でも、ウエイトレスが料理を盛った皿を持ってお客に挨拶した途端に脱力が起こり、料理を落としてしまい解雇された例もあります。

このような情動脱力発作のため、患者は友人との楽しい会話を避けるようになったり、職を失ったりして、落ち込みがちとなります。このようにナルコレプシーに起因して生じる性格の変化を「ナルコレプトイド性格変化」といいます。

またナルコレプシーでは、寝入りばなに恐怖感を伴う生々しい幻覚を見る「入眠時幻覚」や「金縛り」がしばしば起こり、そのため夜眠ることに不安感を抱き、中には木刀を傍らにおいて侵入してくる人影に対抗しようと、無駄と分かっている努力をしている例もあります。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『ナルコレプシーと生きる ー向き合い方から在り方へー』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。