受験日がきた

携帯等は提出し、指定されたものだけが机上で許され、数人の係員が受験票と本人確認をして回った。一席空けた隣の女性から、突然、小さな声で、

「時計を忘れました。真ん中に時計を置いてくれませんか」

と、恐縮した顔で私を覗き込み懇願された。おいおい、こんな時に声をかけるなよ。と思っていると、

「いつもは、時間を携帯で確認しているため、時計を持ってくるのを忘れました」

この声に、今時の若い子は腕時計をしないのかと自身との年齢の差を感じた。

「いいですよ。初めての試験ですか」

と、何気なく聞いた。

「もう、何回目か、恥ずかしくて言えません」

恥じらう気持ちは顔に出ておらず、さっぱりした小声で手を口元にあてて言った。何回もトライする受験者が多いと参考書に書いてあったが本当に大変だと改めて感じた。

「いいですよ。ここに置きますよ。見えるでしょう」

と両者にとっていい場所に置いた。

答案用紙が配られ、担当官の、「始めて下さい」の大きな声で午前の試験が始まった。緊張して、受験番号、名前を書く手がいつものように動かない。午前中は、そんな緊張した気持ちであったが何とか終了し、迷う個所はあったが回答は時間内にできた。

「終わって、回答書を伏せて下さい。担当者が回答書を回収するまで自席を離れないで下さい」

の声で、緊張が解けた。隣の席の女性は、

「今年も、駄目だわ」

と諦め声で自分自身に言い聞かせるように呟いているのが聞こえた。