そして、辺りを見渡せる大きな岩に立った時、最悪の予想が当たっていたことを彼女は知った。それは遥か彼方に立ち昇る、小さな砂埃であった。

「間違いない、白人の群れだ。それも百人はいる!」

フォックスの全身は粟立った。しかし、また彼女の眼は瞬時に、左の丘の上に、十数個のティピーがあることをとらえた。

ティピーを使用するのはインディアンだけ、しかし見慣れない文様で、フォックスの知る部族ではなかった。

しばし迷ったが、フォックスは青の狼煙を上げると、そのティピーに向け、疾走した。

ツー・サンズは愛馬と共に、とぼとぼと山腹を歩んでいた。体力に秀でたわけではない彼女だったが、この山を越えれば希望があるはず、そう信じて歩みを進めていた。

山の頂を越えた時、凄まじい速さでこちらに接近してくる、ブラック・フォックスの姿が見えた。彼女の笑顔を確認できた時、ツー・サンズも、はりつめていた表情が自然とほころんだ。

「ツー・サンズ、新しい友達がいるよ。強力な戦士のライジング・ウルフ。そして、補給と洞察力に優れたビッグ・コレクター。とにかく彼らと会って!!」

最初は小さく見えるだけだったティピーが、みるみるうちに大きくなる。ツー・サンズの目に、山の頂に立つ、大男が見えた。

凛々しくも涼やかな瞳、発達した強靭な肉体、良く伸びた四肢、ライジング・ウルフが槍を持つ姿には寸分の隙もない。ツー・サンズはその神々しいまでの美しさに息をのんだ。

「よう、ブラック・フォックスから話は聞いたぜ。全米を放浪して、仲間を探していたんだろう。俺たちで良ければ、力になるぜ。一人でも多く、味方が欲しいんだ」

「初めまして。私はツー・サンズ。シャイアン族の族長の娘、太陽を背負う女と呼ばれています」

ツー・サンズの頬が紅潮しているのは、夕日のせいでは決してなかった。

誰もが、その理由を知っていたが、冷やかす者はいなかった。

「私はビッグ・コレクター。アラパホ族の孤児であり、物を集める少女と呼ばれています。ブラック・フォックスからあなたの話は聞きました。敵が目前に迫っています。皆で協力し合い、彼らを追い払いましょう。ツー・サンズ、太陽を背負う女よ、どうか知恵を貸して下さい」

「ビッグ・コレクター、物を集める少女よ、初めまして。では、忌憚なく言わせてもらいます。私は数年に渡り、白人たちの所業を見てきました。彼らの行動律、それは、高慢であり、強欲であり、大食です。全ての物を支配せねば気が済みません。彼らの交渉や契約とは、その場凌ぎのもので、全ては自分たちの都合にしか過ぎません。

明日明後日にも、彼らが来る、そうブラック・フォックスから聞きました。彼らの狙いは、バッファローだけでは決してないでしょう。獣の皮を剥ぎ、あわよくば私たちインディアンも撃つ、それが目的と思います。ならば、それを逆手に取りましょう」