そこでY君に聞いてみた。

「君は友達の顔を覚えるのが苦手と聞いたが、髪や頭を隠すとわからなくなるの」

「わからなくなる」

「話は変わるが、今、先生が話していることわかる?」

「半分、わかる……」

「学校でも担任の先生の話もわからないの?」

「半分、わかる……」

「友達の言葉は分かる?」

「だいたいわかる」

「大勢の人がいる中にいると、人の話わかる?」

「わからない」

「君がしゃべらないのは、言葉を発する神経回路が働かないことにあるが、相手の人の言葉の意味が分からないから言葉が出ないこともあるのかな?」

「わからない……」

驚きの変化が起きていた。二年の間隔をおいて筆談を用いて行った知能検査の結果が境界領域から普通領域に大幅にアップしていたのだ。

通常、知能検査の数値が二年で大幅にアップすることは考えにくい。人とのかかわりや体験学習を通じて、言葉による推理力・思考力・表現能力が大幅にアップしたからではないかと思われた。

中学進学を控えた小学六年の三学期末、卒業式で生徒各自が行う一言スピーチについて担任から母親に

「誰かに代弁させますか?」

の電話があった。Y君は母親に

「自分でやる」

と決意を固めた。卒業式当日の自己紹介のスピーチでY君は

「……中学生になったら今まで以上にがんばる……」

と、名前の部分は詰まって出なかったものの見事に言い切った。

事情を知った別の保護者から母親へ「すばらしかった」という賞賛のメッセージが送られた。

今、Y君は中学生として新たな一歩を踏み出している。

※本記事は、2020年3月刊行の書籍『爆走小児科医の人生雑記帳』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。