電話越しの謙介の声が、聞こえなくなった。

「もしもし?」

謙介がため息をつく声が聞こえてきた。

「……なあ蓮。もう、いいんじゃないか?」

「いいって」

「だからさ、血液型だよ。お前の気持ちは分からなくもないけどさあ。その血液型だけで、家族が決まる訳でもないだろ」

「……謙介には俺の気持ちは分からないよ」

「まあ待てよ。そりゃ、俺だってそんな経験したことないけどさ。そんな話、聞いた事もないぜ。でもさ。お前の両親は、小さい頃から蓮を大事に育ててきたんじゃないのか? 今だってそうだろ? 親はいつまでたっても親なんだからさ。たとえ血が繋がっていなかったとしても。蓮がこれから生きていく未来の事を考えろよ。過去の話にどれだけ執着したって、何にも変わらないんじゃないのか?」

ちょっと言い過ぎたかと思いもした謙介だったが、蓮の返事はなく、そのまま電話は切れた。

「はあ、全くあいつ」

謙介が自宅に帰ると、いつものように夕食ができていた。両親は共働きで、母親はパートで働いている。実家暮らしの謙介には、母子家庭で育った蓮の気持ちがよく分からなかったが、蓮のことが心配であった。

「なあ親父、宮﨑蓮って覚えてるか?」

「おお、高校の時の野球部だった、宮﨑君か」

「そうそう。そいつの家庭、母子家庭なんだけどさ」

謙介は、蓮から聞いていた話を父親に打ち明けた。蓮が幼少期に、両親が離婚した事。その間、母親から育てられた事。最近になって、十年ぶりに別れた父親に再会した事。血液検査で、B型と判明したこと。蓮の両親の血液型からすると、父親が違うだろう事。

「それで、蓮から相談されてさ。複雑すぎて難しい話だよ」

「それは大変だな」

父親はリモコンをテレビに向けて、電源ボタンを押した。今日のスポーツニュースを解説していたニュースキャスターの声は、聞こえなくなった。

「まあ本人には、色んな葛藤があるだろうからな。話を聞いてやる人が傍にいるだけでもいいんじゃないか?」

「そうなのかな」

「頑張ろうとしている人間に、頑張れっていう言葉は、逆に相手を傷付けることもあるからな」

謙介は、父親の言葉ひとつひとつに、耳を傾けていた。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『愛は楔に打たれ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。