損害賠償請求で提訴する

オカダ村政3期目にして初めて、阿智村は静かになった。オカダ村長もヤマガミ参事も、そして一番静かになったのはクマダツネオだった。

「官製談合になるのか? それはどういう犯罪なのか」

と、ようやくその恐ろしさがわかったと思う。章設計はそこで動いている。捕まるかもしれない。三人が三人とも、そのように感じ、怯えていた。損害賠償請求で提訴する。結論はこれであった。これならオカダカツミと対峙(たいじ)でき、村長として不適格を突きつけられる。ツネオを表に出せないが、牽制にはなる。

「なんてやつだ! 村を訴えるなんて。設計をもらえなかった腹いせだ」

「権力に立ち向かっても無理だよ。村を相手に勝てっこない」

「章は自分のことばかし考えている。あんな立派な村長を訴えるなんて」

そんな声が上がったが気にならなかった。家族がいればよい。ただ、その家族にも「勝てない裁判」「勝とうとしない裁判」を理解させることはできなかった。

損害賠償請求で提訴を決めた理由はもう一つあった。いずれ官製談合での刑事告訴もあると思っていたのだ。S設計やH建設の時効は3年だが、オカダカツミ、クマダツネオ、ヤマガミムネオらの時効は公職から離れて3年と刑事から聞いていた(刑事の勘違いかもしれない。のちに官製談合法を調べたところ、公人の公訴時効は5年だった)。

損害賠償請求の裁判において官製談合の事実認定は間接的にできるし、調停であれば交渉条件にもなると考えた。長野地方裁判所飯田支部の窓口で、目的に合った用紙に書き込むと、「専門家にお願いしていますか?」と言う。「いいえ」と答える。「大変難しいので、弁護士に依頼するのがよいと思います」と指導される。

それを無視して訴状を書く私に、書き方を懇切丁寧に説明し修正してくれた。調停から入りたいと要望する。そうでなければ私がオカダカツミと対峙できない。

※本記事は、2021年2月刊行の書籍『空模様』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。