手元の資料に目を落としながら吉澤が続ける。

「詳しくは改めてみせていただきますが、賃料支払いが減ればこの赤字をわずかでも黒字に転換することはできるでしょう。しかし、それでなにが変わりますか。ここ数年、総収入はほとんど横ばいが続いています。費用も同じ。その結果の赤字です。ここから賃料減額分の変化が出たとして、財務体質が改善したとは誰も考えないでしょう」

「もちろん、そのための新規分野注力や事業再編の計画です」

柏原が答える。が、

「余力がない、というお話は新規計画のための余力もお持ちではないことだと思います。失礼ですが、この実績から立てた収支予想では新たにサポートしてくれる金融機関はない。当初の契約を見直して賃料を数パーセント減額するだけでは、結果としてなにも変わらないのではありませんか」

いわれる通りだ、柏原は思った。もちろん賃料の問題は病院再建のためのクルマの片輪にすぎない。ただ……最初のうち、この会合にはあまり乗り気ではないようにみえた岡田が口を開く。

「吉澤さん、外に頼るだけでなくまず自分で血を流せということでしょうか。たとえば現状のままで決算を黒字にできれば話は違うかと思うのですが……」

おや、自分と同じことを考えている、と柏原は感じた。

「じつは柏原理事長の就任前から、本質的な問題点の洗い出しや対応策を実行してきました。たとえば病床数です。すべて急性期病床だったウチの719床から100床あまりを地域包括ケア病床に変更。少しずつかもしれませんが、本来の地域中核病院としての陣容が整ってきています」

そういう岡田の言葉を引き取って柏原が続けた。

「副理事長がお話ししたように、私たちがやらなければならないことはすでに着手しています。そこを幾分かでもサポートしていただけないかと考えてうかがいました」

「賃料見直しは当社の売上げに直結しますから、依頼があったから即見直しというのは無理です」

と山田がいい放つ。

「話がスタートするとして、最初はまず黒字化でしょう。賃料負担にかかわらず利益を出し、それがさらなる収益事業につながるという確信を持たせてください」

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『赤字病院 V字回復の軌跡』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。