ファンドとの会合

「柏原先生、そうはおっしゃいますがこれは最初からの合意に基づくもので……」

山田は今度は岡田に向き直って、

「岡田副理事長はよくご存じのはずです。それに自前で病院を抱えていらっしゃったころといまとでは、実際、どちらがゆとりがあるものか―私の記憶に間違いなければ、あのころは半年先の資金繰りで、みなさんずいぶん悩まれていたはずですが」

「それは間違いありません。本当に助かりました。ただし、私の個人的な感覚でいえば、だんだん当時に近い雰囲気が出てきているようにも感じています」

そんな岡田の発言に、少しばかり慌てたような大村が割り込んだ。

「山田常務、決してそんなことはありません。副理事長も『感じ』なんて曖昧なことおっしゃらないでください」

まあまあ、という感じで話を引き取ったのは柏原だった。

「もちろん『喉元過ぎれば……』などというつもりはありません。ただ、半期ごとにお届けしている決算書をご覧になればお分かりのように、建物をお持ちいただいてからもうちの赤字体質は変わりません。その結果、一時的に潤った運営資金も再度底を突いてしまうような予想さえ出てきています」

「その要因は家賃だと?」

と山田。

「もし賃貸料がなければいいところまで黒字が出ます。シミュレーションをお渡しして、大村さん。もちろんお借りしているものを無代にできるはずもありませんから、本来は病院の買い戻しをすべきでしょう。

それは難しいとしても、せめて継続的に黒字を確保できる程度の賃料をご相談できないものでしょうか? 恐らくこれまでの家賃支払いを合算すると、当初Mスターさんが不動産と引き換えに出されたものと同じくらいにはなっているはずです。そうなれば家賃減免の可能性はあるのではないでしょうか」

柏原はそこまで話すと一息ついた。ほとんど口を挟まず、じっとそれぞれの話に耳を傾けていた吉澤が、低い声で話し始めたのはそのタイミングだった。

「柏原さん、お話は分かりました。ただ、いま説明されたご希望には本質的な部分が抜けているようです」