第二章(いざ出発)

車幅(しゃはば)1.7mを超えるワイドボディの3ナンバー車でありながら1.5Lというなんとも頼りないほど控(ひか)え目な排気量のアクセラ・スポーツだが、意外にも太いトルクでぐいぐい引っ張る力強い走りをする。

それが伊能の自慢(じまん)だった。その走行性能には、エンジンの性能もさることながら、ボディの軽量化が大きく寄与(きよ)していた。

洗練された流麗(りゅうれい)なスタイルは、辛口で鳴らす評論家(ひょうろんか)諸氏をも等しく、思わず褒(ほ)めちぎらせるほどの出来栄(できば)えだった。

この車のドライブにふさわしいBGMとして伊能が選んだのが、カッチーニのアヴェ・マリアとして知られる曲を現代風のポピュラー音楽に編曲した楽曲を収録した洒落(しゃれ)たCDだった。

今回、伊能(いのう)が選んだのは、節約第一とばかり、高速道路をはじめとして有料道路は一切(いっさい)利用しない一般道路限定のルートだった。

ナビの画面上には赤い色のラインで経路(けいろ)が表示された。

一般道路限定のルートは、いつも赤い色で表示される。緑色が高速道路ほか有料道路を遠慮(えんりょ)なく利用する快速ルートで、伊能は、“韋駄天(いだてん)バージョン”と呼んでいる。

そのほかにも利用しうるルートがある場合、それらは青色や黄色で表示されることがある。

最近のナビは非常にカラフルになった。今更(いまさら)ながら、(ナビは道を良く知っている)と伊能は思った。ナビの画面上に、到着予定時刻は午後〇時五〇分と表示された。

集合時刻の一三時〇〇分までには時間にして一〇分の余裕があった。

現在時刻は一一時一五分。多少渋滞(じゅうたい)があったりして予定がずれこんだとしても、(まあなんとかなりそうだ)、と伊能は思った。

「一〇分あれば十分だ」

と使い古されてボロ雑巾(ぞうきん)のようになった洒落(しゃれ)をかましてみた伊能であった

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『奇跡の軌跡』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。