盗難や器物損壊もある。私が日本から引率した生徒がカメラを盗まれたことがあった。バックパックのポケットに入れていたのだが、ちょっとしたすきに盗まれたらしい。ポケットが開いていることに気づいたときには、すでにカメラはなくなっていた。全校集会で教師が聞いてくれたがカメラは出てこなかった。集会では学校の備品がいくつかなくなったという話も出ていた。

この学校は決して荒れた学校ではない。それでもこうした問題がたびたび起きているという。視察で訪れた学校でオーストラリアのギラード首相(当時)が、生徒にサンドイッチをぶつけられている映像をニュースで見たことがある。

また、OECD(経済協力開発機構)の報告書によると、オーストラリアでは生徒指導上の課題を抱える学校で、半数近くの生徒が「授業中うるさい」「生徒が教師の話を聞かない」「秩序を乱す生徒がいる」と答えている。落ち着いた学校でも、3分の1の生徒が同様の回答をしている。オーストラリアの学校にも負の部分はあるのだ。

生徒と先生の関係

先生はフレンドリーだけど

オーストラリアの教師はとてもフレンドリーだ。生徒に親しげに声をかけ、優しく接する。教師だからと言って生徒を寄せ付けないような雰囲気はない。包容力があり、生徒を温かく受け止める。

しかし、教師と生徒の間には一線が引かれており、それを越えることはない。必要以上の親しさを示すこともない。フレンドリーではあるが、教師はあくまでも教育者であり、友達(フレンド)ではないのだ。生徒もその点はわきまえており、馴れ馴れしい態度は見せない。それは言葉遣いにも表れている。

理科の授業でのことだ。実験中、生徒が教師に手助けを求める際に、Sir,Ineed your assistance. May I request your help? と言った。かなり丁寧な英語だ。生徒と教師の関係を垣間見た気がした。近年は生徒と不適切な関係を持ったり、立場を不当に利用したりするなど、教師の不祥事が社会問題となっている。

それゆえ、各州は教師の行動規範を強化し、教師が生徒との職務上の境界(boundaries)を越えないよう注意を喚起している。

たとえば、友達のような態度で接する、不適切な冗談を言う、ソーシャルメディアで個人的につながる、性的な言動をする、不必要な身体接触をするなどは厳に禁止されている。特定の生徒を優遇(贔屓)したり、排除したりすること、校外で個人的に会うこと、プレゼントをすること、必要以上にプライバシーに介入することなども禁じている。教師としての権力や立場を利用した行動も厳禁だ。