六月二十一日木曜日

少女と憂鬱とフレミングの法則 2

校舎を結ぶ一階の渡り廊下から、一歩外へ踏み出す。細くやわらかな雨が、くもの糸のように全身へまとわりついてくる。傘をさすほどではない、というより、傘が役に立たない雨。

放課後―腕時計の針は、三時半をまわったところ。木曜定例の教室清掃(三週に一度当番がやってくるその日だった)を終えたわたしは、結局今日もヨウム室に向かっている。

県立美咲ノ杜(みさきのもり)高校―通称、美咲杜(みさもり)。県下の公立では、一応名の通った進学校だ。

校舎のはずれ、生徒の立ち入りが禁じられている旧棟の片隅にその部屋はある。

この三月までは用務室として使われていたけれど、今は用無室という表示にこっそり書き換えられていた。もうだれにも用のない部屋、だからヨウム室。

ミュウ―天坂深雪は、その管理人を名乗る少女。退職した用務員さんから「ここを守ってもらいたい」と、あとのことをまかされたのだという。

管理人といっても、ミュウは、わたしと同じ、県立美咲ノ杜高校の一年生だ。

ただし、正確に言うと二年目の一年生。入学は去年なのだけれど、ほとんど授業に出なかったため、留年してしまったのだ。

五月の末、なにかに導かれるようにして、旧棟をかこむバリケードを越え、ヨウム室の扉を開いたわたしは、そこで、座敷童子のようにくつろぐ女の子―ミュウと出会った。

それから、わたしは、ミュウの力を借りて、母の親友、美鈴(みすず)さんが遺した不思議な言葉「クチナシとアカシヤ」の謎をたどり、ついに解き明かすことができた。

とてもささやかな―でも、けっして生涯忘れることはないだろう、その冒険を通して、いつの間にかわたしは、天坂深雪という少女が大好きになっていた。

それから一カ月―今もその思いは、わたしの中で日々絶賛進行中だ。

ミュウ―気まぐれな問題児にしてヨウム室の管理人。先輩だけど同級生。不思議な扉をいくつももった女の子。そして―わたしの大切な友だち。

ヨウム室で最後にミュウと会ったのは、先週の水曜。

その日ミュウが、いつもとちがっていた、なんてことはなかった。