官製談合は隠すしかないのか

飯田市にあるS設計のサトウ前社長に会いに行った。

S設計を辞めて設計事務所を開設したと聞く。阿智村の建築施設のほとんどはS設計に特命で発注され、オカダカツミとは袖の下でつながっていた。

「なんだ、珍しいじゃないか。俺は話すことなんかないぞ、今まで俺の悪口や文句を言っていたじゃないか」

「そうですね。談合をよくは言えないでしょう」

「いつもきれいごとを言うが、お前の言い分を聞いて調整したのは俺なんだ」

「そうですか。でも、もうやれなくなってよかったですね。それより、どうして社長を辞めたのですか?」

この一言で堰(せき)を切った。

すべて今の社長イマザワの策略だという。出社したら、社員が全員会議室にいる。何ごとかと訝るうちに、イマザワが「株主総会を開催します」と席につくよう促された。

「サトウ代表取締役の解任議案を提出します」と始まった。

「反対意見がありませんので、議案採決を行います」

全員の挙手により採決された。

「認めない! イマザワの独断による強行採決は、俺は認めない」と席を立ったという。

「なぜそうなったのですか?」

「国税局だ。イマザワにW半(飯田市の商社)から数千万円の裏金があって、イマザワは1000万円の追徴課税を受けたその恨みだ」

「なら解任はイマザワさんでは?」

「俺はイマザワと違い、私腹は肥やさん。そういう金はすべて営業で使った。辞めるとき、俺が受け取った500万は置いてきた。イマザワたちが山分けしたと思うが」

本当になんでも話した。だから意地悪く、

「そうして営業してきたのですか。町村営業で必要な金なのですね」

「うっ!」

たたみかける。

「M設計が、『大鹿村の小学校のコンペでサトウさんが助役に金を渡したことを刑事が聞きに来た』と言っていたが」

「それはM設計のミヤモトがやったこと」

「え? M設計が金を渡したのですか?」

「……」

「そういえば、ミヤモトさんに助役の家を聞かれたことがありましたが、すごい世界ですね。でも、両方からもらったら、助役さんはどうやって発注先を決めたのでしょう? 多い方ですか? どう、この際、爆弾発言をしたらどうですか、オカダへの夜の営業、すべて知っていますよ」

「それはS設計のハザワ君が阿智だから、彼がやったことだ」

「そう? ではマサオのところへは? M設計もSH設計もばったり出会ったようですよ」

サトウ前社長は汚れ役を一手に引き受けてきた。

その陰でイマザワは着々と私腹を肥やしていた。だが国税局に摘発されたからと解任した。おぞましい話なのに、いまさらきれいごとを並べられてもね。

「なぜ国税に入られたのか。W半からS設計に大きな金が流れている。一部がイマザワさんの個人口座に入っていた。イマザワさんとW半の共同出資のサッシ販売会社がある。その製品を設計指定していた。そういうことですよね」

ある村の理事者にその一部が渡っていた。それで受注したと思われる設計物件がある。

贈収賄が発覚すれば、サトウ前社長とその理事者が捕まることになるだろう。

どっぷりと浸かりすぎていた。

この人にとっては贈収賄も官製談合も同じなのだ。馘首(くび)にされ悔しいが、警察には捕まりたくない。まあ、ある意味正常なのかもしれないが、調べられれば、この人はなんでも話してしまうだろう。