しかし、作業療法が専門職として世の中に広まるにつれて、作業の見方が危うくなり、作業が見えにくくなりました。この作業療法の危機から出現したのが作業科学でした。

作業的存在としての人間を理解すること、作業と健康の関係を研究することがその特徴です。

作業の見方を理解するために、作業療法と作業科学のダイナミックな歴史から始めましょう。

作業療法の設立者

作業科学は1989年に始まった作業の学問ですが、そのルーツは1917年にあります。

1910年代のアメリカ社会には作業療法という専門職はまだ存在していませんが、

「作業(活動)には健康を高める力があること」

に気づいた人々がいました。

後に作業療法の設立者となった建築家(George Barton)、看護師(Susan Tracy)、医師(William Dunton)、ソーシャルワーカー(Eleanor Slagle)、職業カウンセラー(Thomas Kidner)、手工芸の先生(Susan Johnson)という多彩な職業の人たちです(Peloquin,1991a,b)。

彼らは仕事の経験や自身の闘病経験から、日常の作業には、困難な状況にある人が将来に向かって生活をつくる、健康を増進する力があることに気づきました。

作業を使って人々の健康増進を支援する専門職、つまり、作業療法という新しい専門職の必要性を社会に訴えたのです(Christiansen,2008;Larson,Wood&Clark,2003)。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『「作業的写真」プロジェクトとは 作業を基盤に、我々の健康と幸福を考える』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。