認知症の治療およびケア

認知症が軽度であれば、その人が自立できることやリハビリに協力し、できるだけ自力での日常生活レベルを維持するサポートが役立ちます。

地域のデイサービスなどのアクティビティに参加することも有用です。

認知症が中等度に進行したら、着替えや排泄、入浴などの日常生活に必要な動作に関しても声掛けや見守り、部分介助などが必要になってきます。

高度の認知症では、さらに食事や移動などにも部分から全介助が必要になってきます。

薬物治療としては、近年アルツハイマー型認知症治療薬として数種類の薬が使えるようになっています。

認知機能低下に対してコリンエステラーゼ阻害薬と呼ばれるアリセプトやリバスタッチパッチなどの薬や、作用機序が異なるメマリーといった薬が使用されており、これらは認知症の進行速度を遅くする効果があるとうたわれています。

認知症患者の家族も薬を飲んでいれば安心と思っていることが結構あります。

ところが実際には目に見えるような明らかな効果には乏しいことが多く、薬を飲んでいてもやはり症状は進行します。私たちの経験でも、薬の服用前後で特に認知症状は変わりがないことがほとんどです。

コリンエステラーゼ阻害薬の副作用としては、胃腸障害や興奮などが出ることがあり、薬を中止することがあります。長期にわたって服用していても認知症状は結局進行していくので、実際にどれほどの効果があるかの判定は困難です。

一方、メマリーはほかの薬とは作用機序が異なり、過剰になっているグルタミン酸による神経細胞へのシグナル伝達を抑制する働きがあるとされています。こちらも認知機能が改善するような効果は得られにくいですが、興奮状態の抑制や幻覚の改善効果が多少認められる場合があります。

これらの認知症の薬の効果は、残念ながら、国際的にも十分だとは認められていないようです。

例えば、フランスでは2018年にこれらの薬は保険適応から外されました。むしろ介護対応のほうが費用対効果が高いから、という判断のようです。薬を飲んでいても結局認知症は進行するので、むしろ介護の充実に目を向けるほうが良いのではないかと思われます。

一方、認知症の周辺症状に対しては、抑肝散(ヨクカンサン)という漢方薬や抗精神病薬などが使われ、効果が見られた場合に継続されています。抑肝散は、子供の疳(かん)の虫にも使われる漢方薬で、私たちの経験では半分ほどの症例に効果があるようです。

抗精神病薬は、幻覚や妄想、感情の大きな変動や暴力を抑えるため、セロクエル、エビリファイ、リスパダールなどが処方されます。

これらは効果がしっかり出ることも多いですが、ふらつきや傾眠、便秘などの副作用も出やすいので注意が必要です。

私たちのクリニックでも、認知症による精神症状や異常行動がとても強い場合には、精神科に紹介して薬を調整してもらうことが多々あります。