「東洋経済オンライン」(2020年1月20日配信『「精神病床数」が世界一レベルに多い日本の異様』猪瀬直樹)によれば、精神障害者、知的障害者、身体障害者、発達障害者等さまざまな障害者が入居している民間のグループホームの例では、家賃3万7000円、食費2万5000円、日用品3000円、光熱費1万3000円、計7万8000円(月額)、年では93万6000円である。

これらを考慮すると、一人当たり年額で概ね60万円~80万円程度が妥当であろう。これを1億2000万人に給付するとすれば、72兆円~96兆円程度の財源が必要となる。

また、長い目で見れば、人口が1000万人減った時点を仮定して、物価水準が変わらなければ、必要額は6兆円~8兆円減ることとなる。

つまり人口が1億人なら、BI支給に必要な予算額は60兆~80兆円となり、人口が8000万人まで減ってしまったときには48兆~64兆円となる。

この72兆円~96兆円の差24兆円、あるいは60兆円~80兆円の差20兆円については、地方での再生可能エネルギー生産を拡大することにより、これまで海外の産油国等に流れていた化石燃料の購入費を国内各地域に振り向けるようにすることで補えばよい。

エネルギーシフトを温暖化対策だけでなく、BIとも関連づけるのである。

また、総務省統計局の人口推計によると2019年での年少人口(0~14歳)は1521万人(12.1%)なので、たとえば、この年齢層のBIの金額を半額にするなら、必要な予算は4兆円~5兆円程度少なくなる。

明治安田生命保険が2020年6月に、インターネットを通じて0歳から6歳までの子どもを持つ既婚男女1100人を対象に行った調査によれば、子育て費用は月額平均3万6247円である。

生活扶助では、小.中学生の教育費として概ね一人当たり月額プラス1万円、障害基礎年金の第1子、第2子の加算額は概ね月額2万円、児童扶養手当の児童一人の場合の全部支給額で約4万円、二人目は全部支給額で約1万円である。

したがって、半額でもこれらと同等以上のブースト機能がある。

一方、高齢者人口(65歳以上)は、3515万人(27.7%)である。厚生労働省の「後期高齢者医療制度被保険者実態調査」(平成30年度)によれば、75歳以上のお年寄りのうち、年金収入なしの人が60万2554人、年金はあるがその金額が100万円未満の人が609万6743人となっている。

高齢化社会は、身体的機能の低下等により、みんなが必ず障害者になる社会であるともいえる。いつ障害者となるか、あるいは障害者として暮らす時間の長さが違うだけである。

したがって、住居が別途確保されていても高齢者には、最低限、年金とBIを合わせて、障害年金と同等程度の給付額が必要だろう。年金制度が改善され、すべての高齢者がそれなりの年金を受給できるのであれば、高齢者に関してはBIの給付額を半分にして、10兆円~14兆円予算を節約することもできる。

年少者や高齢者は、現物給付の必要性も高いので、これらを現物給付改善の財源とすることも考えられる。

さらに、現在の日本社会では、給与や家事.育児負担、介護等において、男女の不平等が存在することを考えると、BIの金額に男女間で差をつけ、女性に厚く給付することも考えられる。

女性は、国民年金のみだったり、厚生年金であっても男性と比べて勤務期間が短かったりするなどの理由から、公的年金の平均受給額が少ない。

「平成30年度 厚生年金保険.国民年金事業の概況」(厚生労働省年金局)によれば、厚生年金の場合、2018年度の平均受給額は男性が月額17万2742円に対し、女性は10万8756円だという。

厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」(2018年)によれば、労働者全体を平均して見たときの男女間賃金格差は、一般労働者の平均所定内給与を男女で比べると、男性を100としたときに女性は73.3という状況である。

そこでこれらを勘案し、仮に一人当たり月額7万円のBI財源があるなら、たとえば、平均所定内給与に反比例させて男性5.8万円、女性8.2万円給付するといった連動性を持たせることが検討されてもよい。

このようにすると、BIに男性から女性への所得再配分の機能を持たせることもできる。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『ベーシックインカムから考える幸福のための安全保障』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。