驚くべき中国のものづくり伝統

ものづくり技術のトップは、現在日本とドイツが肩を並べている。

しかし、今後注目すべきは中国の存在である。中国は2~3000年前から、豊かな工芸品を造っている。

その一部に、細かな唐草模様の透かし彫りを基調とした青銅の酒壺がある。これは現在ジェットエンジンのタービンブレードを鋳造する最先端のロストワックス(原型に蝋などを用い、その周りを砂で固めた後、蝋を溶かし抜いた空間に金属の湯を流す鋳造方法)に通じる。

兵馬俑の博物館にある御者と馬車の模型では、その手綱が引抜き加工された1㎜径ほどの金糸・銀糸の細線で撚られ、その端部は溶接で結ばれ、現在の最先端の精密部品の伸線加工技術に通じる。傘は薄い青銅鋳物で作られている。

また、青銅製の長剣がクロムメッキで覆われ、2000年間、耐腐食性を保持しているとされている。クロムメッキの技術は20世紀にドイツで実用化されるまでなかったはずだが……。

このほか台湾の故宮博物院にも卓越した製造技術による工芸品が山のように積まれている。

中国には繊細なものづくりの遺伝子が組み込まれており、決して侮れない。たまたま中国の材料とものづくり伝統が、清時代末期および閉鎖的な共産主義時代に、眠りに入ってしまっただけである。

直近の技能五輪国際大会は、中国の獲得金メダル数は15個と、2位のスイス(11個)、3位の韓国(8個)を引き離し、1962年以降で初めて首位に立っている。日本は、かつてダントツ金メダル獲得国であったが、現在は技能五輪ですら、マスコミの話題にも上らなくなってしまった。

日本は1000年にわたり、高度な材料とものづくり技術が絶えることなく伝承されてきた。

「たたら製鉄」や「日本刀」がその代表である。日本独自のものづくりを基盤に、幕末から明治維新の極めて短期間に、西洋文明を移入・昇華した。言い換えれば、ものづくりを伝承して来なかったら、清時代以降と同じように、国力が衰退したであろう。

これから日本は、相対的に勢いを失いつつある欧米の仲間と行くのか、中国・東南アジアおよびインドと材料・情報技術を中心としたプラットフォームを構築し直すのか、今真剣に考える時期に来ている。

日本の大学進学率および理工系への進学の少なさ

日本人にはあまり知られていないが、米国・イギリス・ドイツ・韓国・日本を比較すると、日本の大学進学率53%も最低部類に属する。

また、日本では大学進学者のうち理工系が2割強しかいない。ほかの国では3割~6割、韓国・ドイツでは6割を超えている。絶対数でも、日本は毎年16万人と各国中で最低である。文科系進学者の多くが高校2年生以降、理数系の訓練を受けていない点が、日本の大きな問題である。

これは中学・高校の数学の教え方に難点があるからだ。特に、文理に関係なく、虚数や行列、微積分、統計学、Excel活用による実計算法などが、いかに社会に出てから有用かを高校時代から教え込むべきだ。

そのためには、数学を興味ある授業とするために、工学系出身者(実務経験者)が教師になることが極めて大切である。

このように、日本の理工系大学では、絶対数が少ない上に、2000年以降から情報やバイオに学生の人気が集中し、ものづくり産業の核である機械・電気・材料系に優秀な人材が、ますます集まりにくくなっており、ものづくり産業を根底から揺るがしている(注7)。

大学でのものづくりの教育・研究は極めて大切である。筆者は、今から40年前に企業の企画部に在籍し、「米国の鉄鋼業はなぜ衰退したか」を調査する機会を得た。