「良いインディアンは死んだインディアンだけだ。あいつらは何の教養もない蛆虫だ。女は男に仕え一生奉仕をし続けるだけの存在さ。黒人は字を覚える必要などなく、ただ働けばいい。俺の土地に、低俗な奴らが入れぬようデカい壁を作ってやろうか。メキシコの貧乏な連中に、1日1セント払えば喜んで工事をするさ」

これが、全米きっての実力者である、ザ・プルートの口癖だ。ザ・プルートはまた、悪辣極まりない残忍な手段を用い、インディアンはもちろんのこと、同胞である白人たちの土地すら奪った。収奪した土地には、安価なホテルを建て、ますます資産を増やし、気づけば彼は、北米大陸一の富豪となっていた。

当時の白人社会には、大統領というシステムはまだなかったけれど、実質的には、それ以上の存在だったといえよう。ザ・プルートは、自己顕示欲が極めて強く、饒舌であった。巨大な体躯と角張った顔を持ち、薄い金髪を靡(なび)かせながら、市民の前でしばしば演説を行った。彼の粗暴かつ粗野な言動に眉をひそめる者も少なくはなかったが、熱烈な支持者も数多くいた。ザ・プルートは、軍隊に多額の資金と広大な土地を提供していたため、軍部にも隠然たる勢力を築いていた。

政界と軍部を握り、莫大な資産を持つ彼を、いつしか皆はキングと呼んでいた。もちろんその間、したたかに本国イギリスにも高価な貢物を重ね、女王陛下の厚い信頼をも築きつつあった。ザ・プルートの次なる目的は、北米大陸に点在する多くのインディアンを殺すことであり、混血児や黒人を全て支配下に置くことであった。

ザ・プルートは我儘(わがまま)で気まぐれで、たとえ長年付き添い辛苦を共にした者でも、ふいに解雇することが多かった。何度も離婚を繰り返し、そのたびに若い女を娶る。いわゆるトロフィー・ワイフである。

「幾ら年を取った男でも、己に金と魅力さえあれば、何歳だろうと、若く美しい女を手に入れることができるのさ」

これもまた、ザ・プルートの口癖であった。彼は、仕事には非常に執念深く、執拗に利益を求めたが、趣味といえば、女漁りと狩猟ぐらいである。特にバッファローを仕留めることを好んだ。その理由は恐るべきもので、あの肉は固く臭くまずいが、皮だけは使える。それにバッファローはインディアンの食糧であり、これを駆逐すれば、自然とあいつらは餓死し消え失せる、という論理であった。

ちなみに、白人たちが北米大陸に来る前は、およそ6000万頭のバッファローがいたといわれている。ところがわずか200年後には、1000頭まで激減していた。無論、ザ・プルートがその全てを撃ったわけではないけれど、全米きっての実力者がバッファロー狩りを好むのならば、阿諛追従(あゆついしょう)する者が増えるのは、自明の理であったろう。

また、ザ・プルートは、全米各地に、諜報網を張り巡らせていた。それは業務上必要なことであったし、バッファローの群れがどこにいるかを把握することもできる。ニューイングランドの冬特有な、陰鬱な厚い雲が覆う寒い朝、ザ・プルートのオフィスに1通の手紙が届いた。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『ザ・ラスト・リゾート』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。