アルツハイマー型認知症研究の歴史

アルツハイマー型認知症研究の歴史を紐解くと、この病気は20世紀初めにドイツのアロイス・アルツハイマーという医師によって初めて報告されました。患者は初老の女性で、嫉妬妄想や記憶障害を呈し、4年後に亡くなりました。

アルツハイマー博士はその症例の脳の病理解剖所見として、(1)神経細胞の変性消失とそれに伴う大脳委縮、(2)老人斑と呼ばれる細胞外沈着物、そして(3)細胞内の神経原線維変化の3つの特徴が見られたことを学会で発表しました。

簡単に言うと、(1)神経細胞がなくなって脳が縮む、(2)神経細胞の外に老人斑という異常な物質が溜まり、(3)神経細胞の中では繊維状の塊が見られる、ということです。

その後のさまざまな研究によって、今では(2)の老人斑はアミロイドベータという物質、(3)の神経原線維変化はタウと呼ばれる蛋白質がリン酸化されたものが沈着していることが明らかにされています。これらの所見はその後、アルツハイマー型認知症の患者の脳に広く見られることが確認されました。

そして、2002年には「アミロイドベータ仮説」が提唱されました。これは、前述(2)のようにアミロイドベータが脳に沈着することが原因で神経細胞が変性し消失しているのではないか、という仮説です。さらにこのアミロイドベータの沈着によって前述(3)のタウ蛋白質のリン酸化も起こっているという仮説でした。

この「アミロイドベータ仮説」が今でも最も重要視されており、アミロイドベータの沈着を阻止するいろいろな薬剤が研究、開発中です。ところがこれまでのところは、どれも効果が十分でない、または副作用が大きく臨床に使えない、といった残念な結果になっています。

また、アルツハイマー型認知症患者にアミロイドベータの沈着が見られない症例もありました。そこでむしろタウ蛋白質のリン酸化こそが原因であるという「タウ仮説」も提唱され、こちらも研究、開発中です。