現実は強し

「しかし、改革といったって、どんな風に変えるつもりなんでしょうね」

「なんだか大きなことをいってらっしゃいましたよね……組織を根本から変えるとか、システムがどうとか」

「そうそう。大言壮語というやつですよ、あれは。そう思うだろう、君も」

そこで大村が急に風二に向けて話を振ってきた。

「それは……お言葉ですが、赤字が出ているのは事実ですよ。それもたまたまじゃありません。そもそもずっと以前から赤字は当たり前になっています」

大村は少し驚いたような、慌てたような顔で風二をみている。一方の山下は、思わぬ答えに少しムッとしたように反論した。

「経営云々というがね、病院というのは本来地域のため、患者さんのためにあるものでしょう? そこを実直にやるべきだと思いますね」

「もちろん、その通りだと思います。先生方はみなさんよくやってくださっています。ただ僕が担当しているのは経営管理ですので……どうしても数字が気になってしまうんです」

「赤字続きというが、それでもこれまでうちの病院はうまくやってきたでしょう? そもそも病院経営なんて華やかにみえて、どこも大変ななかでやっているものです。それはひとえに患者さんや地域に還元していればこそ。いうなれば清貧だろう」

「清貧、ですか……そういう割にはハコが立派すぎませんか?」

清貧なんていえるのは先生たちだけだろう。いや職員たちがいつもほかの病院と比べて給料が低いと不満をいっているのは当然として、医者たちの間にさえそんな声があることも知っている、と考えた風二の気持ちに気づくはずもなく、山下は、

「武士は食わねど、なんて言葉もあるじゃないですか。施設を拡張して、少しでも多くの患者さんを助けられるようにする。そこで費用に糸目はつけない。医療のために身を粉にしているなんて、まさに清貧でしょう」

これに風二が答える間も与えず、横から大村が割り込んできた。